61話 ページ22
目元をかすめた感触に、目が覚める。
久しく見た夢の中の母。
惜しくも、目覚めた途端に夢の記憶が薄れてしまい、曖昧なあの人の姿しか脳裏に映せない。
薄暗い中、視界を覆うのは誰かの手で、僕の前髪を横に撫で付けていた。
優しい、優しいこの手は
「兵長…」
ベッドの縁に座りこちらを見下ろしている彼の顔が、窓から差し込む月明かりで照らさている。兵団服ではなく、黒いズボンと白いシャツを身にまとっていた。
自分はベッドに横になっている、自室のようだ。何故かベッドは下の段、ここに置いてあった荷物はどうしたんだろう。確か本とか、資料とか、色々置いていた気がする。
「悪い、起こしちまったか」
「…いえ、大丈夫です」
というか、何故兵長が僕の部屋にいるんだろう。
あれ、今日は何をしてたんだっけ…
「あ!」
反射のように上半身を起こすと、並行感覚がなくなったような、気持ち悪さに襲われる。
それと同時に兵長に両肩を掴むように抑えられ、またベッドへと戻された。
「動くな、寝てろ」
「……はい。あの、兵長」
「なんだ」
「僕は、その、昼間からの記憶がなくて」
「倒れた。村の医者は過労だと」
「………ご、ごめんなさい。自己管理を怠ったばかりにご迷惑を」
「気付けなかった俺達にも責任がある、お前は気にせず体を休めろ。明日1日休暇だ、好きなだけ寝とけ」
彼はそう言うと再び優しく頭を撫でてくれた。
眠気はまだあるし、目を瞑ってしまえばすぐにでも眠りについてしまいそう。
けれど、まだ二人でいるこの時間を手放したくなくて、大きく深呼吸をした。
「いま 何時ですか?」
そう尋ねると兵長はズボンのポケットから懐中時計を取り出す。
「1時43分」
「…………夜のですか?」
まさかの時間帯に分かりきっている質問をしてしまう。兵長は「当たり前だろ」と言いながら懐中時計を仕舞った。
てっきり19時とか、遅くても22時だと思っていた。
「兵長のお勤めは終わってますよね」
「ああ」
「寝なくて大丈夫なんですか?」
「後で寝る」
頭を撫でていた手はいつの間にか頬に滑らされており、冷たい彼の手が気持ちよかった。
「熱いな」
「兵長の手は冷たくてきもちいいですよ」
「そうか」
反対の頬にも手を伸ばしてくれて、体の熱が少し抜けた気がする。
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やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます、絵を褒めてもらえるのは嬉しいです!! かっこいいと言われて主人公くんも喜んでるはず!笑 (2018年7月10日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Soleil(プロフ) - イラスト拝見させて頂いたのですが、めっちゃかっこいいですね!絵がとてもお上手ですね (2018年7月10日 14時) (レス) id: bc0cb92646 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Rainさん» 嬉しいお言葉たくさんありがとうございます〜!マイペースに頑張っていくので宜しくお願いします!! (2018年7月2日 17時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
Rain - すっごく面白いです!!これからも頑張って下さい!応援してまーす!更新楽しみにしてます! (2018年7月1日 22時) (レス) id: e08e47c2f9 (このIDを非表示/違反報告)
やし野(プロフ) - Soleilさん» ありがとうございます。コツコツ書いていくので今後とも宜しくお願いします(^O^) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3f26a78505 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やし野 | 作成日時:2018年3月31日 23時