32話 ページ32
「そんなところに隠れても意味ないだろ」
「……わざわざ考え込まずに普通に話せばよかった」
「なんだ、拗ねてるのか？」
「今日の消太さん、嘘つくし」
「あれはアイツらを奮い立たせるには一番手っ取り早い方法だったからな」
手を抜いた割に総合一位を取ったのはよくやったと思うが、と相澤はソファーの後ろから顔を覗かせている頭をくしゃりと撫でる。
Aはびくりと肩を揺らしていたが、何も言わずに嬉しそうに目を細めた。
暫くして手は頭から離れ、背もたれの上に置かれた右手に触れた。
肌を隠すように綺麗に巻かれた包帯は乾ききっておらずに湿っている。
「まだ痛いか？」
「……ううん、平気。あとで包帯外しておかなきゃ」
「次から気をつけろ。どこか危なっかしいからなお前は……」
もうこの話は終わりだ、と相澤は机に広げた書類の中から一枚手にとる。
それに目を通しながら「先に風呂入っていいぞ」と声をかけた。
「ねえ、消太さん」
「どうした？」
ぽつりと呟かれた小さな声に相澤は俯いたばかりの顔を上げる。
先程よりも近い距離で二人の目が合う。
相澤はAの表情だけで何を言われるのか察しがついていた。
「今日も隣で寝ていい？」
「……いちいち聞かなくていいっていつも言ってるだろ」
「うん。いつも言われてる」
相澤は小さく息を吐いて「早く風呂入ってこい」と再び書類に目を通し始めた。
その声は少しの呆れも感じない。
合理的な会話を求めることが多いが、相澤はこれで何度目なのか覚えていないやり取りにやめろと伝えたことも、小言を挟むこともなかった。
早起きの日以外は必ずと言えるほど近くで眠りにつくA。
その理由を打ち明けるタイミングは巡ってくることがなく。
立ち上がったAは「やっぱり消太さんは優しいね」と酷く幸せそうな表情を浮かべた。
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やおや(プロフ) - きゃーぽんさん» ご感想、応援をありがとうございます。お楽しみ頂けるお話をお届けできるよう努めますので、今後もどうぞよろしくお願いします…！ (2021年4月20日 0時) (
レス) id: 889f105f89 (このIDを非表示/違反報告)
きゃーぽん(プロフ) - めっちゃ面白いです！頑張ってください！ (2021年4月5日 16時) (レス) id: 0aee990b2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やおや | 作成日時：2021年1月29日 2時
