意味がわかるとヤンデレな日常【名前変換/短編集】

-4,　おかいもの（裏面） ページ8

私はAにことわってから、ショッピングモールのトイレに逃げ込んだ。両手で自分のほっぺに触れると、顔がちりちり火照って熱い、いや、これは重複表現だったっけ？

　とにかく心臓がはじけちゃいそうなほどドキドキしている。個室だから、小さい声なら独り言を言っていいはず。

「やっぱり……Aは天使さまだったんだ！」

　ずっと前から、小学校低学年の事から可愛いなって思ってた。もしかして空から降って来たのかな？ とすら思ってた。そんなAと仲良くできて、一緒にお出かけ出来るだけで幸せだったのに。

　あの可愛い天使さまは、私を重いって言わないでくれた！

　私は今日までずっと悩んでいたのだ。お母さんに、友達のことを何でも知ろうとするのは重いって聞いた。テレビ番組では、盗聴器が仕掛けられている様子にみんなが怖がっていた。

　私は「どうして？ 知りたかっただけじゃないの？」と思ったのに、出演していたタレントも、一緒に観ていたお母さんですら、虫を見るような目つきをしていたんだもの。自分への自信なんて全部なくなってた……。

　せりあがってくる気持ちに耐え切れず、私はバタバタと足を暴れさせる。好きが呼吸するたびに溢れてくるなんて、初めてだ。

　みんなが虫よりも嫌いな"重い"を許してくれるなんて、きっと天使だけだよ。

　私は両手で顔を覆う。まだ顔中が全部熱い。

「もっと、もっとAのこと知りたい……」

　私を友達って呼んでくれる声、もっと聴きたい。もっと笑顔が見たい。学校とかお出かけとか遊んでる時だけじゃ足りない。なにもかも天使の羽根を透かしてしまうまで知り尽くしたい。

　そういえば、あの観たテレビ番組では、盗聴器はコンセントをさしこむ機械に仕掛けてあった。今度家に行ったら……。


　それからの私の行動は早かった。とにかくいろんな方法でAに近づいた。何が好き？ 何が笑いのツボ？ どんな服を着て、どんな人と話すの？ 家ではどんな風に笑うの？

　電気プラグを差し込む部分に、盗聴器を取り付けた。監視カメラはお小遣いを貯めないとまだ買えないから、うまく覗けるところからスマホのカメラで写真は取っている。

　一緒に撮った写真と、こっそり撮った写真。カメラの方を見ていても見て居なくても、やっぱり天使の羽根が見える。

「もう生活の一部だよ、A」

　印刷したお気に入りの一枚に口づけて、今日も私はAの親友を謳歌する。

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