-15, 満員と近接（裏面） ページ28
彼女と雑談しながら電車に揺られる最中、既に俺はまずいと思っていた。多少過敏になっていれば誰でも不審に見えるものだが、スーツを着た30代半ばくらいのその男は明らかにおかしい。
少し離れたドアから乗車した男は、チラチラとこちらの様子を伺っていた。そして多数の乗客が乗り込んで満員になったとき、ここまで移動していた。下腹部で明らかに……いや、よそう。言葉にしたくない。やめやめ。
Aさんは気がついていないらしい。とにかく少しでも奴から引き離そう。俺が間にいれば手は出さないだろう。
「Aさん、狭いでしょ。壁側においで」
彼女の腕に手を添えて、閉じたドアの方へ誘導する。俺が壁になってしまえばいい話だ。
横目で例の男を確認すれば、恨めしそうな顔をする奴と視線が重なり、お互いに慌ててそらす。なんなんだあいつ、早く諦めろよ。向こうがその気なら、俺もAさんの到着駅まで降りられないな。
自分が手に壁をついた内側に彼女がいる。目の前のAさんを他の誰でもない、俺が守っている。背徳的な喜びが湧き上がる。
大学生の俺が歳下の彼女に、好意を持たれるはずがない。それでも、この子が好きだ。今この瞬間だけは彼女の視界を俺が占めている。その事実が胸いっぱいに感じたことのない満足感を与えてくれた。
彼女は「わー……」と小さく声を漏らして下を向いた。一瞬なんのことかわからなかったが、この姿勢を気にしているのだと気がつく。たしかに壁ドンか。
表情が見えない。顔を上げて欲しいけど、この距離でそんなこと言えない。君は今どんな顔をしている？
……俺にこんなことされるのは、嫌？
せめて自分の顔に感情が出るのだけは避けようと、真顔になるように努めた。落ち着け俺、喜ぶな、抑えろ。彼女が俺を好きにならない以上、俺の気持ちは墓まで持って行かないといけないんだ。
耐えろ。この気持ちが爆発したら、縛ってでも独占したくなる
何度も自分に言い聞かせていれば、こちら側の扉が開いた。Aさんが降りていくのに、つい手を伸ばしてしまった。待って、行かないで、もう少し。
「私はこの駅までです、それじゃあまた！」
人好きのする笑顔で会釈する彼女に、伸ばしかけた手を振って作り笑顔する。
「またね」
期待してはいけない"また"に縋るのは、もう何度目だろう。きっと俺は汚い感情を抱え、明日も集会所で彼女を待つのだろう。
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バニー芳一(プロフ) - natukiさん» 読んでいただきありがとうございます！お好みのヤンデレがお届けできて恐縮です (3月25日 12時) (
レス) id: e2dede88a8 (このIDを非表示/違反報告)
natuki(プロフ) - すごく面白いです！！ヤンデレ系のお話大好きなんです！！バニー芳一 さん天才ですね✨ (3月25日 10時) (レス) id: 6c526090d7 (このIDを非表示/違反報告)
バニー芳一 - えふあさんさん» 読んでいただきありがとうございます！大学生の病み方は受け入れられるか若干不安だったので、嬉しいです (1月15日 20時) (レス) id: be5118262c (このIDを非表示/違反報告)
えふあさん - 大学生さんのヤンデレが見事わたしの性癖だったのですごい好きです…！ほかの子達のヤンデレも読んでて楽しかったです！！ (1月15日 20時) (レス) id: 1f387bf1d2 (このIDを非表示/違反報告)
バニー芳一 - 碧花さん» 読んでいただきありがとうございます！なかなかない構成ですが、挑んで良かったです (1月13日 23時) (レス) id: e63de7a269 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：バニー芳一 | 作成日時：2023年8月4日 11時
