15, 満員と近接 ページ27
母が洋菓子の注文をしたらしいが、なぜか私がそれを取りに行くことになった。まさかそのために朝から上り電車に乗ることになるとは。
駅のホームで反対側に待つ人たちをぼうっと眺める。もしこの世界がアニメや漫画の世界なら、私の頭には赤い怒りのマークがついているはずだ。
「Aさん？」
突然知っている声に話しかけられ、私の怒りマークはみるみる内にしぼむ。大学生さんがニコニコと微笑んでいた。
「珍しいね、何か用事？」
「おつかいですー、家でゆっくりしたかったんですけどね」
彼は穏やかに笑う。
「この時間は3駅目あたりで激混みになるよ」
「え、ほんとですか……いつもこの時間に乗られるんですか？」
「そうでもないかな。2か月に1回とか……あ、来た」
ちょうどホームに来た電車が、黄色い線より外を歩くおじさんに警笛を鳴らした。
2駅揺られている間に緊張も解けて、私達はいつも通りに談笑していた。格好が変わっても彼自身が変わったわけではない。集会所のときと同じ自然な会話を楽しんでいれば、今日みたいな突然の外出も悪くないなと思える。
そして3駅目。たしかに怒涛の量の人間が、狭い車内にこれでもかと詰め込まれていった。想像の1.5倍。少なくとも人と人の間に隙間がない。
「Aさん、狭いでしょ。壁側においで」
彼が私の腕に手を添えて、閉じたドアの方へ私を寄せる。私がいる分のスペースが覚悟できるように、壁側に手をついて押し潰されないようにしてくれた。おかげで心なしか息がしやすい。
彼の肩、彼の顔がすぐそばにある。
混雑のせいだし、ほとんど自然発生みたいなものだけれど。これっていわゆる壁ドンなのでは？そう気がついた途端、燃えるような恥ずかしさで耳が熱くなった。誰かに見られてるわけじゃないのに「偶然こうなっただけだから」と言い訳したくなるような感覚。
他人とこんな距離になるなんてそうそう無いことだ。電車が揺れて体が触れそうになるだけで、心臓が跳ねる。
「わー……」
当然とでも言うように表情を変えない彼は、もしかして彼女とかにもこうしているのだろうか……。想像してまた視線を下げた。どうしよう、顔が見れない。歳下の私とか恋愛対象じゃないだろうに。それなのにこんなに緊張してしまう。
──────
「少しでも奴から引き離そう。俺が間にいれば手は出さないだろう……」
-15, 満員と近接（裏面）→←-14, 親密図書館（裏面）
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
バニー芳一(プロフ) - natukiさん» 読んでいただきありがとうございます！お好みのヤンデレがお届けできて恐縮です (3月25日 12時) (
レス) id: e2dede88a8 (このIDを非表示/違反報告)
natuki(プロフ) - すごく面白いです！！ヤンデレ系のお話大好きなんです！！バニー芳一 さん天才ですね✨ (3月25日 10時) (レス) id: 6c526090d7 (このIDを非表示/違反報告)
バニー芳一 - えふあさんさん» 読んでいただきありがとうございます！大学生の病み方は受け入れられるか若干不安だったので、嬉しいです (1月15日 20時) (レス) id: be5118262c (このIDを非表示/違反報告)
えふあさん - 大学生さんのヤンデレが見事わたしの性癖だったのですごい好きです…！ほかの子達のヤンデレも読んでて楽しかったです！！ (1月15日 20時) (レス) id: 1f387bf1d2 (このIDを非表示/違反報告)
バニー芳一 - 碧花さん» 読んでいただきありがとうございます！なかなかない構成ですが、挑んで良かったです (1月13日 23時) (レス) id: e63de7a269 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：バニー芳一 | 作成日時：2023年8月4日 11時
