☆2話 ページ22
『ッ、ふぅ……』
私は厨房で水を飲んでいた。
冷たい水が胃に滑り落ちる感触がする。
夢のせいで混乱していた頭が、少しは落ち着いた気がした。
しかし
“セーレちゃん”
『ッ………』
頭に響く、頭がすっきりしたからこそ聞こえる、夢の声。
その声は、何故か私の胸を締め付ける。
私は、何か、大切なことを忘れているのかもしれない。
朧気に、でも何処か確信を持った時だった。
〔やっと気付いたんだ〕
後ろから声がした。
〔自分が大切なことを忘れてるってこと〕
振り返る。
〔でも、まだ“彼”を思い出すことは出来ないんじゃないかなぁ〕
そこには私がいた。
目元は影になっていて見えないが、その口元には皮肉気な笑みが浮かんでいる。
〔だって、貴方はまだ“彼女”のことも思い出していないでしょう?〕
何故か頭がズキン、と痛んだ。
〔よく考えてみて〕
“私”が一歩、私に近づく。
〔貴方の母親は貴方を殴って蹴って、育てる気なんて微塵もなかった〕
〔貴方の父親もそう。貴方の母親の行動に気が付いていながらも目を瞑った。あわよくば、貴方が死ねばいいと考えたから〕
“私”はそこまで言うと再び笑った。
先程までの皮肉気な笑みとは違う、もの悲し気な笑みが口元を飾る。
〔そんな人たちの元に生まれたら、生まれてすぐに殺されるのが道理なんじゃない?〕
【セーレは、辛い運命を背負ったねぇ】
まるで、頭に直接映像が流れ込んでいるかのようだった。
年老いた女性が窓辺の椅子に腰掛けて、まだ幼い子供を己の腕に抱いている。
【辛い、運命?】
老女の腕の中にいる幼子が尋ねた。
肩辺りで切り揃えられた白銀の髪。
老女を見つめる白銀の瞳。
そしてその目鼻立ちは、私そのものだ。
【もし、貴方がその辛い運命に囚われて、誰に、何を言われようと。貴方が何をしようと。
私は、お祖母ちゃんは、貴方を変わらず愛しているわ。】
老女は幼子の質問に答えなかった。
でも、今の私にとってそれは些細な問題だった。
“お祖母ちゃん”
嗚呼、どうして、忘れていたのだろう。
私は、生まれて間もない私を殺そうとしていた母親を、母親の母、つまり祖母が説得する形で、祖母に引き取られた。
そして、私は6歳まで祖母の元で育てられる。
祖母が、ロワンお祖母様が、病に伏すまでは。
『ッ、!?』
その瞬間、私の左腕を痛みが襲った。
痛さのあまり、その場で膝をつく。
?「セーレちゃん!!」
夢の声とは違う、でも同じくらいに優しい声が、私の鼓膜を揺さぶった。
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闇桜 - 文哉さん» あ!!ありがとーーー!!! (2月16日 21時) (レス) id: 479adc5629 (このIDを非表示/違反報告)
文哉 - めちゃくちゃおもしろいー (2月16日 21時) (レス) id: 914ed8dfa2 (このIDを非表示/違反報告)
闇桜 - ルンバを食べるさん» か、神?!?!あ、ありがとうございます…!!めっちゃ嬉しいです!本当にこの作品へのコメなのか?!?!って私の脳内は大荒れですww今のところライト感がないですけど、これからも元気になってもらえるように頑張りますね!! (2月16日 15時) (レス) id: 479adc5629 (このIDを非表示/違反報告)
ルンバを食べる(プロフ) - 神…ですか、?読んだだけで元気100倍あそぱそまそになれるなんて神ですよね。神ですよ。 (2月15日 20時) (レス) @page29 id: 7a5ced0b99 (このIDを非表示/違反報告)
闇桜 - 優月さん» え待ってありがとうございます!!めっちゃ嬉しいです!!頑張りますね♡!! (1月29日 22時) (レス) id: 479adc5629 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:闇桜@非ログの民 | 作成日時:2023年12月12日 1時