【d！】Crazy for you.【短編集】 (ページ3)

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不器用な愛情表現:chi ページ3

｢夕飯出来たよー」

彼はひょっこり顔を覗かせて、私を呼んだ。
今行くよ、とぞんざいな返事をして立ち上がる。
今日は珍しく彼が夕飯を作ってくれると言うので甘えさせて貰った。チーノは不器用なはずだったのになあ、とても心配。まぁ全部食べるけど。

『何作ったんすか』
｢んふふ、オムライスやで」
『えっチーノ卵割れたの…!?』
｢黙らっしゃい、そのぐらい出来るわ」

ダイニングテーブルには2つのお皿。形は歪なものの無事に完成したオムライスがのっかっていた。
卵の上には見慣れた赤色。けれども、何が書いてあるのかは理解出来なかった。

『えっと…私のは何と書いてあるのでしょうか』
｢あー…実は失敗したんねん、それ」
『やっぱりそうだったか』

やはり不器用な彼にはケチャップで文字を書くのは難しかったらしい。彼のオムライスを見ても不可解な図形らしきものが書いてあるだけである。

｢本当はな、Aって書きたかってん」
『なるほどね。ところでチーノのは何を書いたの？下手な三角にしか見えないけど』
｢それは…んー…」

どうにも歯切れが悪く、目も泳いでいる。
不思議に思ってオムライスを凝視してみると、これは三角じゃなかった。

『…ハート？』
｢バレてもうたか」
『こんなの分からないって』
｢…うっさいわ阿呆」
『喧しいわ。…でも何でハートなんか」

そこまで言って、チーノの頬が赤らんでいるのに気づく。えっ、そういう反応をするってことは…

『もしかして、私の為、とか…?』
｢…そうや」

何か可愛いのかいてあったら、食べるのが楽しくなるかと思ってん。
そっぽ向きながら答えた彼の姿に、どうしようもなくニヤけが止まらない。
思わずハグすると、うわって驚きながらハグし返してくれた。

『ありがとう、すっごく嬉しい』
｢…失敗して、お前に分からないように食べようとしてたのに？」
『でも私の為でしょ、いいんだよ。そっちも一口貰うからね』
｢ちょろい奴」

ふは、と笑う彼に私も笑みが零れる。
どちらともなく椅子に座って、スプーンをとる。
一掬いするたびに彼の不器用な愛情を受け取るような感じがして、とても暖かかった。

＿＿＿＿温もりは確かに、その空間に満ちていた。

めんつゆ君初書き。
久しぶりに戻ってきました。