蛇竜は番犬に恋をする

第四十八魔（バラム＆カルエゴSide） ページ50

でも、それは僕も同じだ

「カルエゴ君、僕は君が誰かに恋してるのはとても喜ばしい事だと思う。でもね……残念な事に僕も君と同じ気持ちらしい。」

一瞬でカルエゴ君の表情が固まった

「流れからの冗談……と言う訳ではないよな。お前はそんな事を言う奴じゃない事は俺がよく知ってる。」

「うん。僕も彼女の虜にさせられちゃったらしいから。」

暫く僕等は見つめ合う
牽制する様に
威嚇する様に
でもふいにフッと笑みが溢れる

「悪魔は己の欲に忠実だ。欲を満たすまで決して諦めはしない。」

「そうだね。それが僕達悪魔の本能、生態だ。」

「……負けんぞ。」

「こっちもね。」

静かに交わされた宣戦布告
禁断の愛だとか許されない恋だとか
悪魔にはそんな事関係ない
厳粛で平等に冷酷を基盤とする彼が初めて特例を良しとした存在
唯一心を許し、彼が愛したいと思った存在
そんな彼女を腐れ縁の僕も狙っている
なんという不幸だろう
でも別にそれを悲しんだり悔やんだりはしない
寧ろ僕の心にはゆらゆらと野心の炎が揺らめいている

(メイデンちゃん……か……)

彼女の笑顔を思い出す度思わず微笑んでしまう
彼女が欲しい
そう思ったらもう止まらない
鳥は一人の番をずっと愛し続けるんだ
カルエゴ君、君には悪いけど
僕も本気だからね
絶対に譲らないよ

ーーーーー

「はぁ……」

俺は教師の制服を脱ぎ、部屋着に着替えるとベッドにそのまま身を横たえた
今になってハドラにシチロウへの書類を届けさせた事を悔やんだ
まさか想い人が被るとは……
そう、想い人
あの日、処刑玉砲にて位階昇格させた時から
いや、もしかしたらあの時助けて貰った時から既に堕ちていたのかもしれない
厳粛平等を重んじる私にあるまじき事だ
惚れた事を自覚した以上もう後戻りは出来ないのだ
あの日以降冷静な態度を維持するので精一杯なのだ
他のろくでなしのアホ共に紛れて好感度(フルラブゲージ)を使っているエリザベッタすら霞む程にハドラしか見えない
ハドラばかりが目につき人一倍輝いて見えてしまう

「あー……クソ……」

誰に届くでもない一人言が虚しく私以外誰もいない一軒家に響く
こんな気持ちは初めてだ
今まで誰にも靡いた事などないのに
ハドラには頼れる、甘えたくなる
教師故に、その気持ちは圧し殺していたが……

「だが、こうなったら本気だ。」

シチロウに取られる位なら本気でハドラを勝ち取りに行ってやる
犬の敬愛は強いのだ
気に入った主人には一生を捧げる
シチロウには悪いが私も譲る等という甘く負け犬な根性はない
誰にも譲りはしない
必ず手に入れてやる

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