蛇竜は番犬に恋をする (ページ47)

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第四十五魔ページ47

「ここか……」

魔生物室の扉の前に立つ
扉は巨体が入れるほどには大きかった
私は扉をノックする

「バラム先生、一年問題児クラスハドラ・メイデンです。カルエゴ卿から書類を渡すよう言われ参りました。入室してもよろしいですか？」

「どうぞ。」

その声に私は扉をゆっくりと開けた
中は沢山の本と植物で溢れており、溢れんばかりの本棚の前に彼はいた
バラム・シチロウ先生
カルエゴ卿と並ぶ8(ケト)位階であり、守護の白鴉(ガーゴイル)の異名を持つ魔生物、特に空想生物学専講の教師だ
その姿はボサボサの長髪とタンクトップの巨体、鉄のマスクという世紀末を思わせるなんとも特徴的な姿だが、彼は私に歩み寄ると微笑んで私から書類を受け取った

「ありがとう。」

「礼には及びません。私は任じられた仕事を遂行したまでですので。」

「それにしても君勇気があるね。みんな僕の事怖がって逃げちゃうのに。若しくは気味悪がって。」

バラム先生はどこか寂しげな表情を浮かべていた
体躯に似合わないその表情はいつしかの自分を思わせ胸がキュッと締め付けられる
私は真っ直ぐバラム先生を見据えた

「私は見た目で悪魔を判断するようなゴミとは違いますので。バラム先生は魔生物や魔植物の知識に長け、空想生物学も興味深い論文を出されています。それに家系魔術の虚偽鈴(ブザー)の応用は素晴らしいの一言では言い表せない程。そして守護の白鴉という異名を冠す8位階という高位階悪魔。そんな貴方様を偏見で毛嫌いするなどと言う愚行、私はしません。」

思わず口走ったそれにバラム先生は目を見開いていた
直後、自分の発言の恥ずかしさに顔が熱くなる
何こっ恥ずかしい事を……
私はさっとバラム先生から目を反らす

「申し訳ありません。口が過ぎました……」

「いや、いいよ。寧ろ嬉しいなぁ。そんな事心の底から言ってくれるの君が二番目だよ。それにやたら僕に詳しいし……」

「あ、その……悪魔学校(バビルス)に通う前からここに入る為に沢山勉強してまして、その時バラム先生監修の参考書や問題集も沢山使っていたんです。とても分かりやすく勉強になりました。」

「そんなに誉められると何だか照れるなぁ。」

バラム先生はそう言って照れ臭そうに頭をかいた

「沢山本を読むのですね。」

「うん。僕は知識欲が人一倍強くてね。絵本も描いたりするんだよ、ほら。」

大きな手で手近な本を取るとバラム先生は手渡してきた
これがお手製なのかと思うほどのクオリティーに驚く
それに内容も分かりやすい
これなら幼い悪魔でも難なく理解できる