第八話 ページ9
会場の広さにも限りがあるため、前半後半カップルに分かれて踊る。前半では去年同様、素晴らしいダンサーたちがその腕前を披露し、ことごとく高得点をたたき出して行った。
シャンデリアの光を受けて柔らかに光り、ターンする度にふわりと広がるドレスはまるで蝶のように美しい。
一方、特別観覧席ではその様子を尻目に、潮が一にペアを選ばせようとしていた。潮の背後には横一列に5人の女性が並んでいる。彼女らは皆、そのドレスの美しさに引けを取らないほど輝いていた。
「今日はこの中から好きな奴を選ぶが良い。」
そう私が言えば、誰でもいいのかと一は何度も聞き返した。その度に勿論だ、と答えるがそれでも執拗に聞いてくる。そして私は無様にも彼の罠にかかったのだった。
「じゃあ、西園寺様でも良いんですね。」
「だからもちろんだ……って、は?」
しまった、と思えばもう遅い。何度も何度も聞くものだから、つい一の言葉を理解せぬまま、脊髄反射で返事をしてしまった。
私の言葉を聞いた一の顔が、今までに見た事のないほど輝く。貴様そんな顔もできるのかと呆けたのも束の間、彼は潮の腕を引いて特別席から降りていく。
「待て! 待てと言っているだろう! 貴様の耳は節穴か!? 私はあの中から選べと言ったではないか! 」
「ええ、ですから1番前に立っていた西園寺様を選んだではないですか。」
確かにそうだが、そうではなく……っ!
そんな言葉を言おうとする頃には既にホールに連れ出されていた。「女」という単語がこれほどまでに大切だと思い知るのは、きっと後にも先にもないだろう。
しかしそれ以上に重大なのは、優勝しなければ、私が恥をかくという事だ。
『俺に恥をかかせたいなら、自ら恥を晒せ。』
一はそう言いたいのだろうか。
もしかすると、コイツは初めから反乱グループの一人で、私に恥をかかせるために己をパートナーに選んだのではなかろうか……。
そんな考えが頭を過ぎる。
だとすれば尚更ここで恥をかくわけには行かない。大衆の前で女性のステップを踏むのはこれ以上ない屈辱だったが、それでも下手なステップを踏むより幾分もマシだ。
アピールポイントで、憎々しげにチラりと一を盗み見る。
そこにあったのは、真剣で楽しそうに踊る一の表情だった。どことなく既視感があったがそんなことはどうでも良い。
己の夢と、眼前の彼が重なる。
シャンデリアの光に照らされた彼は夢と同じ、いや、それ以上に―――― 。
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作者名:闇鍋ソース&ナイフ x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mesemoaLOVE/
作成日時:2019年8月18日 20時