第六話 ページ7
――― 髪をオールバックにして、ホールの天井から下がるシャンデリアの光の下で、私と踊る一を見上げる。
キッチリと着こなされた燕尾服が腹立たしいほどに似合った彼の口が私に向かってこう動く。
『ずいぶん拙いステップですね? 』
「――― っ、ふざけるなっ! ……って、夢か……。」
ひどい夢を見たものだ。
それもこれも全部我が助手、一の練習相手を引き受けてしまったせいだと決めつけて、イライラしたまま食卓へ降りる。
一にダンスパーティーへ参加するように命令してから3日。私は奴のダンスレッスンに付き合っていた。
「わかりました」と言ってから彼は少し考えて、一つだけお願いがあると言った。まぁ聞くだけならと思い言ってみろと返せば、飛び出た言葉は、「練習相手になってください」だった。
しかし練習なんぞさせては認めたくはないがなんでも器用にこなすアイツの事だ。まさか優勝するとは思えないが、その可能性も否定できない。そこで私はもちろん断った。そう、断ったはずなのだ。それなのに。
「え、練習相手になってくれないんですか。もしかして踊れないとかですか。」
「無礼な! ワルツだろうがルンバだろうがなんでも踊れるに決まっているだろう、私は西園寺潮だぞ! 」
「踊れるならいいじゃないですか、付き合ってくださいよ。それとも下手くそとかですか。」
ここまで言われたら、実際に踊って証明するしかないだろう。そんな流れのままにアイツとのダンスレッスンが始まってしまったのだ。
しかし非常にまずい。確かになんでもこなす奴だとは思っていたがここまでとは……。
今日はダンスのステップを2日で完璧に覚えた一と組んで踊る最初の日だった。一のレッスンなので自分が不馴れな女のステップを踏むのは癪だったが、それにしても踊りやすい。
このままでは本当に優勝してしまうんじゃないだろうか。
だいたい私もなぜ練習相手など引き受けてしまったのか。適当に女を当てがえば良かったものを……。
―――― 女?
そこで潮はハッとした。そうだ、本番でコイツと踊るのは私ではない。一のパートナーにわざと下手くそに踊るよう命令すれば良いのだ。言うことを聞かなければ金にものを言わせればいい。それに社交ダンスは2人の息が合ってこその競技である、たとえ一が1人だけ上手くてもそれで優勝できるわけが無いのだ。
一の無様なダンスを思い浮かべてニヤケが止まらないまま、その日の練習を終えたのだった。
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作者名:闇鍋ソース&ナイフ x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mesemoaLOVE/
作成日時:2019年8月18日 20時