第238話 エゴ ページ48
あぁ、ついに言われたか。
他人事のようにそう思った。
そうしないと自分を守れなかった。
夏実は自分が龍太からAと同じように大切にされていないことくらい知っていた。
それでも、ここまでとは思っていなかった。
まさか怪我をさせて、あんな。
――――黙ってたからAの傍にいても構わないと思っていたけど。
――――よく喋るようになったお前は邪魔だ。
――――でも、夏実は粘り強いからね。きっとこのままじゃ何度でも僕をイラつかせてくれるんだろ。
――――これで僕に近づきたくなんて無くなっただろ。
あんな、ゴミを見るような目で見られるなんて。
Aを守るためにとった行動で、自分すら守ることが出来ないなんて。
心の底から消えたいと思った。
龍君が私に怪我をさせたのは、私がきっと誰にも言わないと踏んでのことだろう。
私なら、Aに言わないと知っていて、実際その通りになった。
こんな、都合の良い女として扱われて、それでも私は。
「それを分かってるのに、お前はまだ自分を犠牲とすることを良しとしてんのか」
「土方さんのことも水早龍太のことも、本当は無理矢理にでもAから奪いたかったんだろィ」
「そのAのために、水早龍太に説教しに行って、結局自分が1番傷ついて」
「お前があの2人にしたことは、こんなことしなくても許されねぇことじゃねぇと思いやすがね」
そんなこと、分かってる。
夏実は、外側の人間から見て自分が責められるような立場にいないことは知っていた。
実際、龍太に『見て見ぬ振りだったクセに』と言われるまで、自分を責める人間は1人としていなかったのだから。
だから、この贖罪はエゴだ。
私は許されたい。
あの子に一瞬でも抱いたこの汚い感情を。
私の本当の罪なんて、何も知らないあの子に、私を責めてほしい。
出来るのなら、すべてを知ったあの子と、次はもっと綺麗な友達になりたい。
「Aは、お前のこと責めたりしてねぇと思いやすぜ」
違う。
違うよ沖田君。
私はね。
「私は、Aに私のことを責めてほしいんだよ」
こんな汚い、私のことを。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2017年12月13日 20時