第193話 前の彼のまま ページ3
「お前、大丈夫なのかよ、あれ」
教室へ向かう階段に足をかけたとき、銀八に後ろからそう言われた。
「大丈夫って、何が」
振り向かずにそう聞き返す。
「だって、ちょっとおかしいだろ、さっきの」
「おかしいって何が」
「とぼけてんなよ。さっきのは明らかに、お前の罪悪感を利用し……」
「変なこと言わないでよ」
何となく何を言われるのか分かって、銀八の声を遮るように早口でそう言った。
私も銀八も感じているなら、これはきっと確信にかわってしまう。
それが嫌だった。
「龍太は、前の龍太のままよ」
そう言って、階段を登り始める。
後ろから足音は付いてはこなかった。
「だから、大丈夫」
自分に言い聞かせるように、呪いを唱えるように、そう言った。
異変が起きたのは3階まで来たときだった。
突然視界にもやが走り出す。
なんだこれ、なんだ、これ。
おそらく脳が朝から働き過ぎて、血が足りないとかそんなんだろう。
だけど、なんだかこれ、死にそうな気がしてきた。
怖くなって、階段の手すりに掴まってその場にしゃがみ込む。
すると、後ろからいきなり背中を叩かれた。
驚いて振り返ると
「お前、何してんでィ。こんな所で」
見知った顔がそこにはあった。
そいつは私の顔を見てから「どうしたんでィその顔色!!」と慌てだした。
良かった、助かった。などと思う暇も無く、私はその腕にしがみついた。
それからのことはよく覚えていない。
あとから聞いた話では、私はこんなことを呟いていたのだという。
「保健室には連れていかないで」
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2017年12月13日 20時