第192話 変わらぬ笑顔 ページ2
「久しぶりだね、A」
“それ”は、前と変わらぬ笑顔であった。
「実はね、夏休みの終わる一週間くらいから、目が覚めてたんだよね。
いっぱいリハビリして、Aを驚かせようと思って、会えなくしてもらってたんだよね」
何が
「でさ。やっと杖があればマシに歩けるようになったから、学校に我が儘言って、保健室登校で、お医者さんの許可の出た日なら登校しても良いことにしてもらったんだ」
起こってるの。
「Aは今年で卒業じゃない?だから、一緒に学校で過ごしたいなーと思って」
頭が付いていかない。
「………」
ずっと何も言えず黙っていると、龍太が少し不満に思ったのを感じた。
伊達にずっと一緒にいる訳ではないのだ。
でも、こんな事で不機嫌になるような奴ではないはず、と思いつつも、慌てて口を開こうとする。
言うことなんて何も思いついていないくせに。
「――――龍太、私」
「いいよ、何も言うことないなら。無理して言わなくても」
笑っていた。
でもまだ不機嫌な声。
何かに怒っているんだ。
「ねぇ、A、知ってる?
1年間も寝たきりだとね、最初はまともに物も持てないの。
お箸もうまく使えないし、歩くのなんて全然無理」
「……てよ」
「ここまでになるまで、僕、すごく頑張ったんだよ。
今でも沢山歩くことなんて、出来ないけど」
「……やめてよ」
「でもね、Aと過ごす筈だった1年は、もう」
「止めてって言ってるじゃない!!!」
酷い声だった。
その声は部屋中に共鳴した。
「オイ、落ち着け」
知らぬ間に銀八が隣に立っていた。
肩をポンと叩かれる。
そこでやっと本当に冷静になって、自分の言った事に気づいた。
「あ、ごめ、龍太」
「僕こそごめんね、責めるみたいになっちゃった」
龍太は笑っていた。
底知れぬ不機嫌は何処かへ消えているようだった。
「さっきコイツが説明した通り、来れる日は登校することになったらしい。
まぁ、お前には言っといた方がいいだろうと思ってな」
「そ、そう」
銀八が私と龍太の間に入ってそう説明する。
なんだか守られているような気がしてならないのは何故だ。
「じゃあ、そういうことだから。お前はもう補習行け」
「う、うん。分かった」
「あ、待って。A」
ドアへと向かう足を止められる。
振り向くと、
「お弁当、一緒に食べようね」
1年前と変わらない笑顔がそこにあった。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2017年12月13日 20時