(79)望まぬ二人 ページ40
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「抱いてください」
中也の目を真っ直ぐに見て、陽和は云った。
「…何云ってンだ、手前」
「本気です。別に変じゃないでしょう?私達、夫婦なんですよ」
「未だ入籍はしてねえぞ。式の前日までは只の婚約者だ」
予想外の言葉に中也は驚いた。
そりゃそうだ。真逆齢18の生娘から其ンな事を云われるなんて誰が予想し得るか。
少なくとも、目の前に居る如何にもなお嬢様の口から出るとは思ってなかった。
「莫迦な事云ってねえで帰れ。俺は明日も仕事だ」
そう冷たく云い放って椅子から立ち上がった中也の腕を、陽和の細い腕が掴む。
「お願い…しま…っ!」
彼の帽子がはらりと落ちる。
ドスッ、という音と共に陽和の顔の横に黒い手袋をした手が置かれた。布団によって大きな音は出なかったが、そこそこの衝撃だったと思う。
驚きで丸くなった彼女の瞳には、今迄見た事の無いくらい真剣な顔をした中也が映っていた。
「未成年とやるのは趣味じゃねえが…其ンなにお望みなら叶えてやろうか」
何時もより低い声で告げた彼の矯正な顔がゆっくりと近付いて、鼻と鼻が触れ合う距離になった。
普通は目を瞑る所だろうか。しかし、陽和は中也から目が離せなかった。其の侭距離がゼロになるのを待っていると、彼は低く囁くように云った。
「…手前…俺の影に誰を見てる」
「えっ…?」
「本気で手え出すと思ったか?」
言葉を詰まらせる陽和を中也は鼻で笑った。
詰めた距離を元に戻して、また真っ直ぐに彼女を見る。
前々から薄っすらと感じていた。陽和が自分と誰かを重ねている事を。
只そう感じていただけなので半分以上は勘だったのだが、此の様子じゃどうやら図星らしい。
「…良く云いますね」
「何がだ?」
眉を顰めた中也に陽和は薄く笑いながら云った。
「貴方だって同じでしょう」
「手前と俺がか」
「ええ。本質的な部分では」
2人の目線は交わった侭動かない。今更何方も反らせない状況なのだろう。
「他に存在する大切な異性を未だ忘れられない事も、目の前の相手より其の人の方が大切な事も。そして…此の婚姻を望んでいないことも」
中也は何も云わなかった。
何も云わずに彼女から離れ、帽子を拾い、埃を払う。
「図星でしょう中也さん?だからね、私は貴方と取引をしたい」
「取引だァ…?」
彼女の考えている事は、彼女にしか判らなかった。
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ヤマダノオロチ(プロフ) - Yuukiさん» ありがとうございます!やっと構想がまとまってきました。これからもよろしくお願い致します! (2017年2月18日 23時) (レス) id: b2832ff97e (このIDを非表示/違反報告)
Yuuki(プロフ) - とても面白かったです!スランプで大変だと思いますが、これからも頑張ってください!応援してます!! (2017年2月18日 23時) (レス) id: 3720d37733 (このIDを非表示/違反報告)
ヤマダノオロチ(プロフ) - 天さんさん» コメントありがとうございます!上から目線だなんてそんな事無いですよ!?お褒めに預かり光栄です(>_<)最近はラブソングばっか聴いてて、主と中也くっつけたい〜とか考えてます(笑)これからも頑張ります! (2017年2月14日 20時) (レス) id: b2832ff97e (このIDを非表示/違反報告)
天さん - う、上から目線で失礼しましたぁああッ!! (2017年2月14日 19時) (レス) id: 6b9cd4fe2d (このIDを非表示/違反報告)
天さん - スランプ大変ですよね…文章とか読みやすくて好きです!頑張ってください(*´ω`*)ちなみに、私はスランプの時は曲を聞いてます。曲聞いてるとネタがポンポン出てきますので…!これからも応援してます(´˘`*) (2017年2月14日 19時) (レス) id: 6b9cd4fe2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2016年9月4日 20時