重力、夢中力…弐｡【中原中也】

(61)平穏な日常 ページ22

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中也も帰国し、Aはやっと幹部代理の肩書から解放された。

書類の量もつい此の前に比べれば減り、平穏な毎日が戻ってきていた。



「だから教えろって云ってンだろ！」

『だから厭だって云ってるでしょ！』




……平穏な毎日が、戻ってきていた…。



「あの…中原幹部、A補佐…」

『「後にしろって云ってンだよ!!!」』

「は、はい!!申し訳ありません!!!」


収拾がつかない現場に事務員が泣きそうになっていると、2人の背後に大きな影が現れる。


「…いい加減にせんか阿呆共！」

「がｯｯ?!」『でｯｯ?!』



ゴチン、と小気味の良い音が鳴り、双方は己の額を抑えて蹲った。

2人の怒号に痺れを切らした尾崎紅葉の金色夜叉によって2人は額同士をぶつけられたようだ。

幹部2人と其の補佐役の中に取り残された事務員は恐怖でガチガチに固まっている。
仕事で書類を届けに来ただけなのにとんだ災難だ。



「復帰早々世話の焼ける奴等じゃ。悪いのう、私(わっち)が受け取ろう」

「あっ、はいっ、失礼しました！」


尾崎に書類を渡すと、事務員は逃げる様に其の場を去って行った。

中原とAは痛みが治まったのか、再び立ち上がり睨み合っている。


「怒鳴り合いが私の部屋迄聴こえたぞ。仲が良いのは構わんが、少し限度を弁えんか」

『「だって中也/Aが！」』

「何か云ったかえ？」

「何でも無いですゴメンナサイ」

『以後気を付けますスミマセン』


どすの効いた声に姿勢を正す2人。

"仲が良い"というのにはツッコまないのか、と尾崎は思った。


「それで、原因は何じゃ？」

『中也がしつこいンですよ！』

「はぁ？元はと云えば手前が原因だろうが！」

『どの辺がですかぁ?!』

「何だよ此の写真！」

『あああ出すな！つか誰だよアンタに其れ送ったの！』


また口喧嘩を始める2人を前に、尾崎は溜息を吐かずにいられない。

中也の手に有るのは何時だかのドレス姿のAを撮した写真だった。


「中也、可愛いと思ったなら素直にそう云え」

「はぁ!!?其ンなんじゃねーよ!!」

『きっも』

「思ってねェってんだろ!!!」


賑やかさが返ってきたのが良いのか悪いのか判らないが、2人が元気そうで良かったと誰もが思ったとか思わなかったとか。



「久々に聴くねぇ、彼の2人の喧嘩」

「Aとチュウヤは本当に仲良しね」


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