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きっと其の六十 ページ10

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気が付くと、中原は冷たいタイルの上に居た。

垂直に交差する直線がどこまでも広がっているのを見て、此処が話に聞いたチェス盤の上だと理解する。

カチャンと乾いた金属音が聞こえた方へ目を向ければ16体の駒。

それぞれ、歩兵(ポーン)騎士(ナイト)司教(ビショップ)戦車(ルーク)(キング)を思わせる。

その中には勿論、黒の女王(クイーン)も並んでいた。

黒の女王が片手を上げると、それぞれの駒が前進を始める。それと同時に彼女もまた、Aの座る玉座へと上昇を始めた。

「待ちやがれ!」

升などお構い無しに全力で盤上を駆ける中原だが、予想以上に巨大なチェス盤は敵陣へ辿り着くことを簡単には許してくれない。更に、目の前には15の駒たちも迫ってきていた。

チッ、と壮大に舌打ちをして中原はボードを蹴った。そして跳躍。

歩兵(ポーン)の頭を足場にして前へ。斜めから来た司教(ビショップ)を蹴り飛ばせば、空いたスペースに戦車(ルーク)が突っ込んで来る。
それを避けるついでに触れて持ち上げ、反対側に叩きつける。すると半壊の戦車(ルーク)を飛び越えて騎士(ナイト)が剣を振り下ろす。すれすれのところで刃を躱すと、跳躍して騎士を蹴り落とし、馬を踏みつけてまた前進を始める。

(わり)ィが構ってる暇は無えよ!手前も其処退きやがれ!!」

玉座の下で構える(キング)に吼えるが彼はビクとも動かなかった。足場にした反動で歪んだ王冠が無情にも盤上へ転がる。

「動こうが動かなかろうが確実にとるけどな」

もうすぐ其処まで追いついた玉座では、黒の女王がAを抱きしめていた。

黒の女王はそのまま膨張を開始。みるみるうちにAが呑み込まれていく。

「中原…幹部……」
「A!!」

遂にはトレードマークの帽子を脱ぎ捨て足場にし、中原は空中を加速した。
最期に藻掻くが如く伸びたAの華奢な腕を何とか掴んで引き寄せようとするが、

「……クソッ!」

反対側からかけられる引力に勝てず、彼も黒の女王の闇の中へ飛び込んでいってしまった。
それでもAの腕を離すまいと力を込めるが、視界はどんどん黒に覆われていく。

やがて、ボードの反対側に辿り着いた歩兵(ポーン)が振り返った先には黒い靄だけが残った。



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ヤマダノオロチ(プロフ) - カンナさん» ちょっと……涙が出そうです……ありがとうございます。お待たせしました(> <) (2020年6月16日 19時) (レス) id: 20ed7c05bd (このIDを非表示/違反報告)
カンナ(プロフ) - 初コメ失礼します。更新楽しみにしていました。おかえりなさい(*´ω`*) (2020年6月16日 18時) (レス) id: 5ade983ea5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆのみ | 作成日時:2019年5月11日 13時

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