きっと其の五十六 ページ6
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それから他愛もない会話をしていると、注文した料理が運ばれてきた。
「ほら」と一口目を私にくれる立原。
「じゃあ、」と私も自分の皿を差し出した。
お互い一口目は相手の頼んだものを食べるという何とも可笑しな光景だ。
でも矢ッ張りカルボナーラも美味しかった。
「……すげえ口の中がバジル」
「そりゃジェノベーゼだからね」
時に沈黙し、時に語らい、笑いながら、私たちは食事を楽しんだ。
なんとドリンクがおかわり自由とのことだったので、2人で2杯目を頼みもう少しだけゆっくりすることにした。
店員が「ごゆっくりどうぞ」とお決まりの台詞を告げてまた去っていく。
「なあ、A」
明らかに今までと違うトーンに小さく眉を上げて応える。
「俺、送ったメールになんて書いたか、覚えてるか?」
「……"忘れてくれ"って」
「嗚呼。でもあんなこと云っときながら、俺の方が忘れられなくてさ」
また、そういう苦しそうな顔をする。
彼のその顔を見るのは、あの日が初めてだった。今日改めて見ても……見たくない。
立原の苦しそうな顔が、厭だ。
「どんだけ考えても、俺は矢ッ張り、お前が好きなんだよ」
こんなにも想ってくれる人が、この世に居るだろうか。あれほど辛い思いをさせても尚、私を好きだと云ってくれる人が。
「だけど、何回も何回も考えて、判った事があるんだ」
「……判った事?」
「俺じゃ、お前を幸せにできない」
冷たいグラスの外側を結露が伝っていった。
「俺、実は、お前に隠してる事があるんだ。誰にも言えないけど……すごく重要な事を隠してる。俺はいつか、お前を傷付ける。きっと赦されないほど」
「ッ、立原に傷付けられた事なんか一度も無い。寧ろ散々傷付けたのは私の方で……!!」
「それはもういいんだよ。云ったろ?"忘れてくれ"って」
一寸でも気を抜けば、全てが溢れそうだった。
「お前にはもっと大切な人が居るはずだ」
「何云って……」
「ふっ、案外鈍いよな。Aは」
立原が優しく笑うから、先程の雰囲気など空調に吸い込まれてしまった。彼は手を伸ばして、私の頭に触れる。そしてクシャッと髪を乱した。
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ヤマダノオロチ(プロフ) - カンナさん» ちょっと……涙が出そうです……ありがとうございます。お待たせしました(> <) (2020年6月16日 19時) (レス) id: 20ed7c05bd (このIDを非表示/違反報告)
カンナ(プロフ) - 初コメ失礼します。更新楽しみにしていました。おかえりなさい(*´ω`*) (2020年6月16日 18時) (レス) id: 5ade983ea5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆのみ | 作成日時:2019年5月11日 13時