きっと其の九 ページ9
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「ねえ知ってる?最近中原幹部がさ、」
「知ってる知ってる!アレって矢ッ張り恋人さんなのかな…」
"中原幹部に恋人ができた"(らしい)という事を手洗いの中にある化粧室で聞いたのは、とある徹夜明けの朝だった。
確かに、最近中原幹部に会う頻度が減ったと思う。
知り合ってからは挨拶以上に喋るようになったし、偶に酒の席に入れてもらうこともあった。
多少、他の女性よりは仲良くしてもらっていると思っていたのだが……まァ、ソレとコレとは別ってことか。
身なりを整えて化粧室から出ると、何の偶然か中原幹部が通り掛かった。
とりあえず、神様はとんでもなく意地悪である。
「おう、A」
「おはようございます」
「どちら様です?」
「黒蜥蜴のAだ」
「初めまして、AAと申します」
幹部の横に居るのはスラッとした如何にもな美人さん。足が長くて顔が小さくて…美人だ……おかげで語彙力が列車ばりの速さで去っていった。
「初めまして、汐野真純です。Aちゃん、可愛い顔してるわね」
「あ、ありがとうございます」
少し顔を近付けて云ってくるもんだから、同性ながら何だか頬が熱くなる。
蛍光灯を反射するライトブラウンの瞳と髪の毛。血色の良い艷やかな唇。汐野さんそのものが、どこか浮世離れしていた。
この人と中原幹部が恋仲と云うのなら、もう『お似合い』以外の言葉が見つからない。
「そろそろ行くぞ、真純。じゃあな、A」
「ええ。またね、Aちゃん」
「はい、さようなら」
……名前呼び、してた。
矢ッ張り2人は恋人同士なのか。
それで当たり前のように納得したが、何か引っ掛かる。
ストンッと嵌まるはずのものが、小さなささくれに阻まれているようだ。
「……Aっ」
「っわァ?!」
「はははっ、ナイスリアクション」
後ろから脅かしてきた立原に「心臓が止まったらどうする」と抗議すると、「止まってねえだろ」と躱されてしまった。
恨めしげに睨みながら要件を訊けば、ただ突っ立っていた私にちょっかいをかけただけらしい。この鼻絆創膏、許すまじ。
「それより、お前に特令らしいぜ。爺さんがチラッと云ってた」
「特令…?」
「詳しくは知らねえ。さ、行こうぜ」
「ちょっ、引っ張ンないでよ」
私のような小者に下る特令とは一体何だろう。
トイレ掃除や蛍光灯交換じゃなければいいけど。
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時