きっと其の三十五 ページ35
.
仄かに薬品の香りが漂い、柔らかな布団が私を包み込んでいる。
ゆっくり瞼を開くと、蛍光灯の光が差し込み、だんだんと視界が鮮明になった。
お腹に何か重みを感じ、身体を起こすと、見慣れた赤毛が乗っかっている。なるほど。
「ちょっと、重いンだけど」
「あいてっ……A!?」
赤毛を小突くと、それは勢い良く起き上がり、私に迫った。
「……うるさい、近い」
「っ…!悪りぃ!」
距離感を指摘すれば、顔を赤くして大袈裟に身を引く。寝たり起きたり叫んだり離れたり、全く忙しい奴である。
それにしても異常な体のダルさに参る。
異能力を発動する為に、こんなにも体力を必要とするのだろうか。というか、私自身の肉体は何もしていないはずなのに。
まあその前に銃を振り回したわけだから、そこへ精神的な疲れが上乗ったと考えるのが妥当か。
「立原が此処まで連れてきてくれたの?」
「まあ、おう」
「そっか、ありがとう」
そう云ってそろそろ黒蜥蜴の執務室へ戻ろうとベッドから降りると、これまた慌てた声で彼が止める。
「まだゆっくりしてろよ、今日はもう何もしなくていいって云われてンだよお前は」
「いやでも、寝てただけだし…」
「いいから!大人しく寝てろ!!」
「えぇ……」
渋々ベッドヘ戻ると同時に、ガチャリどドアノブが鳴って、特徴的な帽子頭が入ってきた。
「…起きたのか、A」
「あ、はい。お疲れ様です」
「おう。もう動けるな?首領がお呼びだ」
「えっ」
自分だけ除け者にしてトントン進んでいく話に、立原の顔色が暗くなる。勿論無意識ではあるが、Aと中原が慣れたようにツラツラ話すのを見ていると、何だか胸がざわめいた。
ちょっとでも引き留めたくて「本当に大丈夫か?」と彼女へ問いかけたが、答えは予想通りだった。
「……中原幹部、」
「あ?」
Aが先に出ていってから、立原が再び口を開く。
「いや、やっぱ、何でもないッス」
「おう、またな」
振り返らずに、手をヒラヒラとさせて返事をした中原はAを追って扉を閉めた。
.
169人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時