きっと其の二十三 ページ23
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ハンプティ・ダンプティが塀に座った
ハンプティ・ダンプティが落っこちた
王様の馬と家来の全部がかかっても
ハンプティを元に戻せなかった
呟くように詩ったAを立原は訝った。
「……如何した、急に」
「そんな気味の悪いものを見る目で見ないでよ」
「いや気味悪いぞ実際」
立原の足へかかる衝撃。
「いってえな?!」
「ごめん、一寸、長い足が滑って」
「巫山戯ンな‼」
Aはずっと、あの夢について考えていた。兎と猫が放った言葉全てが何かしらを示唆しているように思えたからだ。
そして2匹は『もうハンプティが壊れそう』と云った。
そこまで考えて、Aはふと思った事を口にした。
「ねえ立原、不思議の国のアリスに出てくるのはハートの女王だよね?」
「あ?そうだろ」
「正確には、"赤の女王"だがな」
2人の近くを通った広津がそう付け足す。
「映画と原作とでは相違点も多い。偶には読書もいいんじゃないか」
そろそろ時間だ、行くぞ。と彼は踵を返した。Aと立原も得物を携えて、すぐ後を追った。
道中でもAの思考はそこから離れない。
ハートの女王は赤の女王、か。ならスペイドの女王は黒の女王?否、"黒の女王"なんて聞いたことがない。
「おい、ボサッとしてんなよ」
「……うん、ごめん」
切り換えて、背中から
______君の世界は狂い始めてる。
(……もう疾っくに狂ってる)
鮮やかに舞散る紅色を見ても何も感じない。市民一般からすればもう充分外れた世界に居ることは既に知っているし、だからといってそれを厭に思ったりなんてしなかった。
「……A…?」
「銀、其方も終わったか……って、Aは?」
銀は無言で首を左右に振る。自分自身も、Aが居ないことにはたった今気付いたのだ。
そこへ全てを終えてやって来た広津も何も知らず、Aの行方は一向に判らなかった。
「爺さん、今日の標的に異能者は?」
「事前に伝えた通りだ。そんな情報は無い」
「じゃあ何で今Aが居ねえンだよ!?」
「……とりあえず落ち着け」
凄んだ立原の顔には不安と焦りが見える。広津は、今にも掴みかかってきそうな立原を鋭い視線で黙らせ、難しい顔で一言云った。
「一先ず、拠点へ戻るぞ」
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時