ねえ、私の一等星。〈後編〉[レイ] ページ8
.
「自分のことがつくづく嫌いになる……って思ってるだろ」
「……何言って、」
「顔に書いてある」
「……嘘？」
「まあ嘘だけど。でも嘘ではないかな」
「ふふ、それってどっちなの」
冗談なのか本気なのか真顔で告げるレイの言葉に頬を緩めると、レイは目を見開き、どうしたのかすぐにその目を伏せた。
そして、ゆっくりとこちらに手を差し伸べる。
──いつもの、私より大きな優しい手。
既に枯れてしまった涙。
頬を伝ったその理由なんて、本当はとっくにわかっていた。
私は誰よりも嘘つきだった。
「体調は？」
「あはは、相変わらず心配性だね。大丈夫だよ！」
本当は、病気なんかじゃない。
本当は、ハウスを離れることに少しだけ後ろめたさがある。
……外に出るのが、怖い。
重荷を背負って生きてきたレイが儚く思えてしまって、支えたくて、隣に立っていたくて。
でも今までと変わらずにいれば、私は本当に彼のことを知らないままだ。
ずっとそばにいたくせに気づけなかったなら、なおさら。
彼は私のために頭を回す必要も、寄り添う必要もないんだ。
「行くか」
レイの顔には一抹の不安や微かに残る動揺が覗いて見えた。
言葉では頼りに聞こえても、やはりまだこの状況を把握しきれていないのだと思う。
お互い今が精一杯で、一生懸命。
もしも私にほんの少しの勇気でもあれば、彼の手を振り払って、私はここを出ないと言って荷物を投げ捨てるんだろうけど。
それはきっと我が儘でしかないし、何より私の良心と恋慕が嫌がるから。
そっと彼の手を取ると、自身の両手で包み込んだ。
ねえ、私の一等星。
「──うん。行こう、レイ」
ずっとずっと、気づいてあげられなくてごめんね。
.
〈2度と訪れないあの日の話〉
僕に願いをくれる人[ノーマン]→←ねえ、私の一等星。〈前編〉[レイ]
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月ノ瀬 | 作成日時：2019年6月8日 0時
