寝ても覚めても[ノーマン] ページ3
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「ノーマン」
みんなが眠りについた頃、部屋に響いた軽いノック。
このハウスの子たちとは違う少女の優しく楽しそうな声。
静寂が包む真夜中、2つの音にぼんやりとしていた意識が覚醒した。
眠れないと寝返りを打っていたのは数時間前のこと。
体感でいえば一瞬だったが、いつの間にかあれからかなりの時間が経っていたようだった。
ようやく眠気がやってきたかと思えば先程の音に起こされ、まるで誰かに寝るなと言われているようだと思った。
うつらうつらした思考のせいか聞き覚えのないその声に疑うことも渋ることもなく、僕はゆっくり扉を開けた。
扉の向こう側に、知らない少女が立っていた。こちらを見つめて笑っている。
「君は……?──あっ!」
見覚えのない姿を凝視してから目の前の人物へと問いかけるが、少女は突如身を翻して廊下の方へと駆け出した。
「待って!」
その後を追うように僕も堪らず駆け出す。
考えるより先に体が動いたのはなんだか僕らしくなかったかと思う。
それでも心なしか浮わついた気持ちの自分がいたせいか、足を止めることはできなかった。
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暗がりのハウスに青白い光が浮かび、先へと駆けている彼女の軌跡をなぞるように伸びていた。
夢と錯覚してしまいそうなほど幻想的で、その現象に思わず釘付けになる。
流れ星のようだった。
光は扉へと向かい、やがて少女は外へと飛び出す。
──一体少女はどこまで行くのだろうか。
少女は時折くるくると躍りながら楽しそうに走っていく。
僕を試しているのかただ遊んでいるだけなのか……その真意はわからない。
僕はとうとう脱げかけのスリッパを放り投げた。
くすぐったい草の感触が足の裏から伝わってくるが、それでも先を行く少女に夢中だった。
真夜中にハウスを抜け出す背徳感だったり、名も知らぬ少女への好奇心、追い付けないもどかしさ、夜風と葉擦れの音。
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森の奥深く。風が吹き荒び、木々が大きく多方向に揺れて、僕のシャツが踊っている。
少女は立ち止まって、空を見上げていた。
夜空を恍惚とした表情で眺めている。
彼女との距離をゆっくりと詰めて、その肩に触れようと手を伸ばした。
手が、絡め取られる。
「……教えてくれ。君は誰だ?」
「ノーマン……秘密だからね」
──ぎゅっと握られたその手に、これは夢だと、そう思った。
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〈少年の忘却と追憶の話〉
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作者名:月ノ瀬 | 作成日時:2019年6月8日 0時