自己中だね、ごめん〈arkt〉 (ページ16)

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収録自体は難しいことはなかった。

高そうなレストランにいって、俺が大ちゃんに愛を囁くっていう流れ。
台詞自体ももともと用意されていたから多少の緊張はあったけどさらっと終わらせることができた。

収録が終わればだいちゃんは暑い暑いといって、ウィッグをとる。

そのとき俺とばちっと目があえば次は転ばないようにとゆっくり俺の隣にきた。

「どーだった？俺の女装。どきどきしたろ！」

スカートの裾をつかんでくるくると回る姿は小さな女の子がドレスを着て喜んでいるようですごく微笑ましい。
　
「…うん。すごくどきどきした。今の姿をみてもどきどきしてるもん」

深い意味なんてない、
本音を言ったら大ちゃんはえ？と声を上げてぴたっと動くのをやめた。

「…どうしたの？」

「あっ、いや、圭人ってこういう感じの格好が好みなんだなーって思って！」

俺の声に反応して大ちゃんが必死に笑顔をつくっている。
なんでこんなに慌てているんだろ

「この格好が好みっていうか、大ちゃんにすごく似合ってるから。
大ちゃん以外のメンバーが着ててもドキドキはしないよ」

きっと山ちゃんがこのドレスを着ても大ちゃん以上に似合うとは思わない。

…あれ？褒めたのに大ちゃん、泣きそう？

眉を垂れ下げて涙こそ流れてなくてもそこには明らかに水がたまっていて。

大ちゃんの口が開いた、と思ったら周りに聞こえないよう小さな声だった。
でもその声はひどく震えていた。

「あの、さ…そういうこと、いうのやめて…。
俺、どうすればいいか、わからなくなる。
変に期待とか、させないで」

期待させないで、

その言葉が強く心に突き刺さる。

「ご、ごめん…あっ…メイク、落としてきなよ…」

笑みが作れたか分からない。
けれどどうすることも出来なくてそういうと大ちゃんは小さく頷いて俺の隣からいなくなった。

"圭人の無意識ってたまに残酷だよな"

笑いながら言ってたやまちゃんを思い出す。

……そうだよな、期待させるようなことを無意識に言っちゃうんだから残酷だよな…

山ちゃんもそうだった。
俺だけにカフェ誘ったり、俺だけに噛み癖があったり、俺だけに向けてくれる笑顔をしてくれたり。

何度も期待して、何度も落ち込んだ。

俺以上に伊野ちゃん"だけ"が存在したから。
それはすごく明白で。

…なんで、同じことをしてしまうんだろう

気分も空気も重くなり溜息をこぼすとぽんっと肩に手が乗った。