花ことば ( Ⅲ ) (ページ6)

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見覚えの有りすぎる字と文字列。

その少し上には、

眩しい笑顔を浮かべる紫耀さん。

その隣には美しすぎる女性。

そして指輪。

見たくないはずなのに、

何故か目を離せないのはどうして？

目を背けたいはずなのに

綺麗すぎる紫耀さんを見るのが

これで最後だから、って

眺めようとしてしまうのはどうして？

目頭がじんわりあつくなるのも、

胸の奥がぎゅっと苦しくなるのも、

全部全部夏のせいにしてもいいかな。

脳内に響いている、

あの頃の紫耀さんの声。

周りの音は全部それにのまれて、

波の音すらも聞こえない、

塩気のある風の匂いもしょっぱくなくて

むしろ、華やかな匂いがして、

最初から何もなかったフリ、

何も知らないフリをして

必死に笑って誤魔化した。

そして、全部を置き去りにするみたいに

その店を出る。

ごちそうさまでした

また来ます

なんて言葉の裏側をのぞけば、

もっと切ない想いが見えてしまうのが怖くて

変わらない笑顔の飛貴に

必死に安心を求めた。

再び海に向かっている途中

急に冷えた指先を早く温めようと

心が急がせたとき、

飛貴の手が私の両手をぎゅっと包んで

向かい合わせにさせてくれる。

飛「Aが嫌って言っても

　そばにいさせろ、」

ごめんなさいとありがとうが

複雑に交差する中で、

好きという感情だけがまっすぐ。

また、返事の代わりに

その手をあつく握る。

飛「どこに居ても迎えに行くし、

　連れ去っちゃうからな」

「……飛貴」

飛「大丈夫か？」

「なんでもないよ、大丈夫

　ありがとね」

飛「余計な心配すんな、な？」

「ありがと、飛貴」

何も言わなくても

私の気持ちをくみ取ってくれる飛貴に

また甘えてしまった。

ごめんね、

もう少しだけ、甘えさせてくれませんか。