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まだ表情にはさっきまでの笑いを残したまま、翔が私に問う。
「ひとり？」
「なわけないでしょ。…会社の飲み会」
「こっちで働いてんの？」
「最近、戻ってきたの。お母さんの調子も良くなったから」
「そっか……良かった。気になってた。実のところ」
「翔にはもう大丈夫って報告しようかと思ったんだけど…でもそれは何か違うかなって思って」
「何で(笑)言えよそこは」
「そうだよね、ごめん」
「いや。謝るとこじゃないけどさ、でも良かった、マジで」
「翔は？戻ってきたの？」
「あー俺は休み取れたから。久々に実家顔だそうかと思って」
「なんか……海外で働いてるエリートみたい」
「みたいじゃなくて、実際そうなんだっつーの」
「エリート笑」
「おまえ馬鹿にしてんだろ笑」
「わかった？」
「わかるもなにも、Aの考えてることなら何だって、……」
続きの言葉を咄嗟に飲み込んで口を噤んだ翔も、そして私も。
ぐぅ、と一気にあの頃の感情がこみ上げてくるのを感じた。きっと、翔も同じだったでしょう？翔の目が、私を静かに捉えてそのまま視線を外そうとはしなかった。
好きだった。大好きだった。この人が、好きでたまらなかった。
「あん時、さぁ。何で言わなかったの？おばさんのこと」
私を見据える翔の目が、微かに熱をはらんでいるのがわかる。
「だって……」
「はー。お前言わないんだもんなーそういうこと。後から人伝に知ってなんとも言えない気持ちになったわ、こっちは」
「言ったら…翔は、きっと日本に残ってくれちゃうって思ったから」
５年前の冬だった。
母が、病気になった。
同じ頃、私は翔に「一緒にパリに来てほしい」と言われた。きっとそれは、プロポーズだった。
翔は、昔から海外で働くのが夢で。その想いをずっとずっと隣で見てきた私は、言えなかったの。やっとチャンスが舞い込んで、その夢が叶う翔を目の前にして、“母が病気で、実家に帰ろうと思う”なんて言えなかった。そのことが翔の夢のほんの僅かでも足枷になるくらいなら、さよならを言おうって、そう思った。
翔は馬鹿みたいに真面目だから。馬鹿みたいに、優しい人だから。
「なぁ。飲み会、もう終わる？」
「え……っと、もう終わる、というか先に帰ろうと思ってたとこ……」
「暇？」
「え？」
「こーのーあーと。時間ある？つーかちょっと話したい……んですけども」
翔の誘いを交わす術なんて、私は持ち合わせていなかった。
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璃桜(プロフ) - 初めて読ませて頂いた作者の方もいて色んな作風が読めて楽しかったです。ゆったりとした雰囲気が儚くちょっと切なく感じました。またコラボの企画があったら読みたいと思いました！これからも応援しています！ (2016年12月12日 21時) (
レス) id: 18ebc3f5e6 (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - reiさんのお話、ぐっときてしまいました。やっと自分の気持ちに気がついたのにすれ違いでもぅ会うコトもままならないなんて。後悔をして愛を知るなんて。悲し過ぎる。甘いお話も好きですがたまに涙して毒気を抜いてます。これからも楽しみにしています！ (2015年9月23日 14時) (レス) id: cc888f66ce (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - つむさんのお話大好きです。泣けてしまいました。また素敵なお話読むの楽しみにしてます！ (2015年9月23日 13時) (レス) id: cc888f66ce (このIDを非表示/違反報告)
かしゆか(プロフ) - この作品面白かったです！ところでつむさんに質問なんですけどパスワード解除したりはしないんですか？ぜひつむさんの作品を見たいのですが･･･ (2015年9月15日 0時) (レス) id: a67ea852ce (このIDを非表示/違反報告)
Ame(プロフ) - 5人の作者様のお話がそれぞれ重なりあってて、すごくおもしろかったです。感動しましたし、お腹いっぱいになりました。また是非このような企画があることを楽しみに待ってます！ (2015年4月23日 0時) (レス) id: 8bdb99006e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：tomyummy
x他3人 | 作者ホームページ：
作成日時：2015年4月2日 23時
