【銀魂】沖田隊長、約束をしましょう【沖田総悟】

勝負 ページ19

私の上ずった、歪な形をした声を聞いて、沖田隊長は短く「どうした」と呟いて続きを促すようにした。けれどその表情は、少しだけ強ばっているのが分かった。よくよく見ていないと気付けないような変化だけれど、彼が浮かべていたポーカーフェイスが、一瞬だけ崩れたように見えたのだ。苦しそうな。何かに怯えているような。そんな表情が見えたのだ。けれど瞬きをした次の瞬間には、飄々としたいつもの表情に戻っていて、まるで一秒前の彼が嘘みたいだった。嘘みたいに思えてしまうけれど、でもそれが見間違いではないことは分かっていた。だって私はその表情を見つけて、酷く胸を痛めたのだから。ズキズキと、鋭い痛みの余韻がまだ私の胸にこびりついていて、それが嘘ではないことを教えてくれる。彼は、確かに表情を崩したのだ。

きっと、彼は私がこれから何を言い出すのか、予測して、理解したのだろう。彼は勘がいいし、洞察力もとてつもなく長けている。私のこの様子を見れば一目瞭然だろう。それでも、ちゃんと聞いてくれようとしている。遮ることだって出来たのだ。私は彼の部下で、彼が黙れと言えば黙ってしまうかもしれない。彼に話すことを拒絶されて、まだ食い下がれる気がしなかった。

けれど彼は、拒絶をしなかった。だから、私は生唾を飲み込んでは勇気を出した。ひとつ残らず勇気を絞り出すように。


「…しょ、勝負をしてください…！！」

「…勝負？」


…沖田隊長はそんな何処か抜けた声を漏らしては、ポカンとした顔をした。私がなんだか的外れなことを言い出したので、訳が分からなかったのだろう。今は分からなくてもいい。彼はとても頭がいいから、すぐに分かってくれるだろう。

私は「はい」と頷いて、道場に竹刀を纏めて置いてある所に足を向けた。そうして一本の竹刀を手に取った。その手は微かに震えていて、それを紛らわせるように握り締めた。


「変なこと言い出してごめんなさい。でも……こうでもしないと、言えないから…」


…勇気を出しても、ストレートにぶつけることは、出来なかった。まだまだ、勇気が足りない。だから、少しだけ遠回りをして、彼とぶつかろうと思う。私のこの考えの意図を、汲み取ってくれると信じて、私は振り向き、沖田隊長を真っ直ぐに見つめた。睨み付けるのに限りなく近い感覚で、彼を見つめる。そして、口にする。


「私が勝ったら、私のお願いを聞いてください」

「…！！」


あぁ、言ってしまったと泣きそうになりながらに思うけれど、後悔はしない。


「勿論、手加減は無用です」


後悔したくないから、戦うんだ。

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