将来の夢 1 ページ12
No Side
「Aちゃんは将来何になりたい？」
『しょーらい？』
そう言ったのは緑谷だった。
みんなで夕飯の親子丼を食べているときだった。
『しょーらいって？』
「うーん、大きくなったらってことかな」
『おっきくなったら……』
小さく繰り返したAは、スプーンを置いてしまった。
ぐるぐる、ぐるぐる。
頭の中で全力で考える。
――しょうとはヒーローになりたい。わたしもいっしょにヒーローしたい。でも、ヒーローになったらおとうさんもいっしょになるんだよね。それは……こわいなぁ。
遠い昔(Aにとっては少し前のこと)、Aは緑谷のおかげでヒーローに対する考え方が少し変わった。
だが、完全に変わったわけではない。
「ヒーロー＝父」の公式は、どうしてもAの頭に残っているのだ。
『…………しょうとは、わたしにヒーローになってほしい？』
ポツリとつぶやく。
しん、と静まり返った。
この雰囲気を作ってしまったことに焦ったのか、緑谷は慌てたように言う。
「将来の夢は、誰かに頼まれて決めるものじゃないよ！ Aちゃんは何になりたい？」
『…………ごめんね、もしゃもしゃのおにいさん……わたし、わかんないや……』
「……そっかぁ。大丈夫だよ、いつか見つかるよ」
へら、と困ったように笑ったAに、緑谷はそう声をかけるしかなかった。
うん、ありがとう！ と返事をしたAは、すぐに親子丼を食べるのを再開した。
それに従うように、またカチャカチャと食器の当たる音と話し声が響き始めた。
一人を除いて。
「…………」
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作者名：月木あや | 作成日時：2023年7月19日 12時
