織田作の面影 -伍-

佰漆拾陸 ページ17

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人の傷を之程迄に擦る奴が

此の世に中原中也以外居るだろうか


否、居ない……。






『いだだだだッ！』

中原「先刻から煩えよ！」

『そんな……消毒液を垂らした脱脂綿で、傷口を強く擦る人なんて居ないよ

寧ろ悪化する。』

中原「治療してる方が痛いなら、普段は痛みなんか感じねえんじゃねェか？」

『其の考え、近い内に直す可きだね』

中原「うっせ。」



そう云い乍らも、中也は包帯を取り出して

私の腕と肩に巻き始めた


脇腹は……流石に自分で。

中也は気にしてないけど、私は恥ずかしいから見せられない

理由は……其れだけ。


『……手付き慣れてる

包帯を巻くのだけは上手いね』

中原「貶してるな」

『半分は褒めてるよ』


きちんと止血した筈でも、包帯を巻けば若干、血が滲んだ。



『……うん、有難う中也』

中原「ああ……

あんま、無理はするンじゃねえぞ。」

『判ってるよ』

中原「此の際だから一つ云っておくが

手前は自分を軽視する所を直す可きだな。」

『軽視？』

中原「自分を大事に出来ねェ奴が、他人を大事になんか出来ねェ」

『……何それ。』


中也、お願いだから其れ以上は云うな……。




中原「何故そう云われているのか……


一般論として、他人を大事に出来ねェのは

他人に良い事をしたと云う優越感を感じる為の行為になるからだ

そして、其の理由は、自身の心が満たされていないから」

『……っ！』

中原「手前みたいな奴なら、一つや二つ

思い当たる事が有るだろ……？」

『……』



私は……

咄嗟に中也から目を逸らした。


其れが中也の心の中での“仮定”から“確定”に変わる根本的な原因になったとしても

もう、隠せていないから。




『そうかも、知れないね

でも今更、治せないから……』

中原「最初から諦めてンじゃねーぞ

手前らしくねェ」

『中也……』

中原「俺は先刻の任務の報告書の作成に取り掛かる

手前は休ンどけよ、絶対」

『……う、うん

有難う……』


私は、そんな中也の言葉に

素直に頷いた。




部屋から出て行く中也の背中を見送って

ソファに深く腰を掛けた。




『……休むのは、私が目的を果たしてから……だけど。』


中也の荒治療に比べて痛みの弱い腕と肩


そして、脇腹に軽く治療を施した私は

中也の言葉を無視して……




部屋を出て、ある場所へ向かう＿＿＿＿＿。









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