same pictures ページ8
「え、え? どうして……」
男性に見せ付けるようにエプロンドレスの裾を持ち上げた少女は困惑の声をあげた。それもそのはず。ドレスは全く濡れていなかったのだ。頭や肩にも手をあててみるが、どこからも水が滴る様子はない。
思わず部屋の隅へ目を向けると、窓の外ではやはりまだ止む気配のない雨が降っていた。
これは一体どういうことだ。こんな短時間で服が乾くはずもなく、わけがわからない。
少女が混乱する思考をなんとかしようとしていると、男性が少年に何かを伝えているのが見えた。
「客人を部屋に案内してやれ」
「了解!」
少年は男性の言葉に元気な返事をすると、少女に向き直り「ついてきて、お姉さん」と、言うが早いか歩き始めた。少女は扉の奥に消えようとする少年を慌てて追いかける。男性はとくに何を言うでもなく、自らの横を通り過ぎる少女を横目に見送りつつあくびをした。
***
少年に追い付いた少女は、終わりの見えない長い廊下を歩いていた。ふかふかの絨毯を踏みしめながら左右の壁を眺める。彼女は壁に等間隔で並べられた絵に目を奪われていた。それは、さして珍しいわけでもない普通の風景画であり、普段であればそこまで気にするようなものでもなかったが、こうも同じ絵が何枚も並べられていたら気にせずにいられない。そう、少女が眺めている絵画は全て同じものであった。
「ねぇ、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「どうかした?」
立ち止まり振り返った少年に、少女は絵画を指で指し示す。
「どうして同じ絵ばかり飾っているの?」
その質問に少年はきょとんとする。そして左右の壁に交互に目をやり口を開く。
「あ、本当だ!」
「……え?」
「僕全っ然気づかなかった。すごいね、お姉さん」
予期せぬ尊敬の眼差しを向けられ、少女はたじろぐ。
「なんで同じ絵なのかなぁ? 画家さんに聞けばわかるかな」
「……画家さん?」
「うん。絵はね、全部画家さんが描いてるんだよ」
確かに画家は絵を描くものであり、飾られるための絵画というのは大抵画家に描かれるものだ。だが、少年の話し方はまるで画家という単語を個人を指し示すものとして使っているように聞こえる。
「画家さん、という人がいるの?」
「いるよー」
半信半疑で問うた少女に返事をした少年は前方に向き直り
「画家さんの部屋はね。あっち」
と指をさしながら歩みを再開した。
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