a boy ページ4
−−返事はない。
重厚な扉の向こう側からは物音一つ聞こえない。
少女は暫く待った後、もう一度扉をノックする。
しかしやはり返事はなかった。
留守なのだろうか、どうしようか、と少女は考える。まだほんの数メートル先は水で溢れているため、到底引き返すことはできない。
少女がぐるぐると思考を回していると、不意に空が瞬いた。次いで空気を轟かせるような音が落ちてくる。落雷だ。
彼女はびくりと肩を震わせる。ドアノッカーを握る手に知らず知らずの内に力が入っていた。
彼女は雷が苦手だったのだ。
そうしている内にも空を切り裂く光は次々と落ちてくる。
(こんなところにいつまでもいられない)
少女は扉に向き直る。
そしてこちらを嘲笑うかのような表情のガーゴイルに目を向け、恐る恐る扉を押した。
ギイィィィと軋んだ音をたてながらも、扉は少女の加える力に逆らうことはなかった。
開いた扉の隙間から中を覗く。館の内部は薄暗く全体を把握することはできない。明かりは無いのかと少女は探すが、見つかったのは天井で心もとなく揺れる火の灯っていないシャンデリアだけだった。
少女は今にも落ちてきそうなそれから目を離し、ぐるりと室内を見回す。そして口を開いた。
「誰か、いませんか?」
細く緊張した声音。
少女は自分のそんな声に驚きながらも耳をすませる。
しかし返事はなかった。
聞こえなかったのだろうか。
それならと少女は息を大きく吸い込む。
そして
「すみませーん! 誰か、いませんかー?」
「そんなに大声出さなくても聞こえてるよ?」
突如響いた声。
少女とも少年ともつかないその無邪気な声は少女の後ろから聞こえてきた。
恐る恐る振り返る。
「こんばんは。お姉さん」
明るく無邪気に微笑む声の主は、少年だった。歳が10を越えているかどうかというようなその少年は、少女に近寄ると下から覗き込むようにして彼女を見上げる。
ルビーの色をした瞳と視線がかち合った。
「ねぇ、こんなところで何してるの?」
「……えっと、あの、雨宿りをさせて欲しくて」
先程森で見た花の色に酷似した瞳から目をそらせずに、少女は戸惑いながら答えを返す。
「雨宿り? ……ふーん、そっかぁ。じゃあこんなとこにいないでさ、中に入ったら?」
ほらほら、と言いながら少年は少女の手を引く。
「え? ちょっと……」
強い力で扉の中へと引きずり込まれる。
状況が掴めないまま、彼女はただ少年のそのミルクティー色の背中を見つめるしかなかった。
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