兄様、黒の時代編です (ページ34)

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兄様、正直何を云えばいいのか判りませんページ34

部下達は絶句した。芥川もAの部下も強ばった表情で太宰を見ている。

太宰「本気の織田作は、どんなマフィアよりも恐ろしい。芥川君、君なんか百年経っても織田作には勝てないよ。」

芥川「...莫迦な。」

芥川は噛み殺すような小声で云った。

芥川「有り得ない。太宰さん、貴方は僕を...」

太宰はそんな言葉を無視し、電話が掛かってくるとそれはAからのものだった。

太宰「やあA、助かったよ。お陰で死体を調べずに済んだ。」

『お役に立ててなによりです。兄様、坂口安吾さんの行動情報ですが...』

太宰「うん、教えて。織田作に伝えるよ。」

『判りました。』

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俺は安吾の事を考えた。この街の何処かで、悪に染まりつつある男のことを。

あるいは悪は俺達マフィアで、安吾とミミックはそれを断罪する正義の味方なのかもしれない。そちらの仮説のほうが、幾分節が通っているようにすら思える。

俺も太宰もAさんも首領も皆、罪を背負って孤独と悔悟のうちに死んでいくべきなのかもしれない。それがこの世界の正しさの証明なのかも。

そんな考えを巡らしながら、先程まで居た会計事務所を出ると、太宰から連絡が入った。

太宰「やあ織田作。いきなり本題だ悪いんだけど、手懸かりを掴んだ。今から云う場所にAと向かってくれないか。」

織田「Aさんとか？」

すると俺の近くに一台のタクシーが来るとそこからAさんが降りて来た。

「別件の仕事が終わりましたので再び同行することになりました。」

そして俺はAさんと共に車でハイウェイを通り抜け、目的の場所に向かった。

時刻は夕刻を回ろうとしていた。

山肌に入った切り込みのような未舗装の道路を通り、途中で車を降りた。

「此処からは徒歩ですね。」

雑草の茂った歩道を分けて入って行くと、やがて夕闇に紅く照らされた鉄筋の建物が目に入った。

それは三階建てほどの廃墟だった。もとは白かったであろう外壁には蔦が絡まり、雨と潮風と時間が総掛かりで塗装を殆ど剥がし落としている。

建物の中心部に、空の様子を確認するための観測塔があり、てっぺんに球形の望遠室が飾りのようにくっついていた。

土と樹木に音を吸い取られて、周囲は宇宙のようにしんとしている。大人数が潜んでいる気配はない。

「兄様の部下達が来る前に、廃ビルを調べますか？」