兄様、黒の時代編です (ページ4)

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兄様、もう厨房に立つことはオススメしませんページ4

そして太宰の落胆とは裏腹に、機銃と榴弾砲を揃えてきた連中なら、あながち現実認識の出来ない間抜けでもない。

相手が太宰でなければ、の話だが。

ポートマフィアにはこう云う云い習わしがある。

『太宰の敵の不幸は、敵が太宰であること』。

太宰がそうしたいと思えば、戦争の銃撃戦の真ん中でランチピクニックをすることだって出来る。マフィアになる為に生まれてきたような男だった。

地下組織ポートマフィア幹部＿＿太宰治。

マフィア幹部などと云う肩書きを、少年とも見紛うような若造が名乗っているとなれば、事情を知らぬ人間には笑い話だろう。

だが、太宰が打ち立てた偉業のリスト＿＿闇と血のリスト＿＿を見れば、笑ってもいられなくなる。

ここ二年でポートマフィアが新たに得た利益のおよそ半分は、太宰の功績に依る。その総額が何億になるのか、そのために踏み潰された命が何十人になるのか、一介の太鼓持ちである俺には想像もつかない。

無論＿＿代償のない栄光など存在しない。

織田「また傷が増えたな。」

俺は酒杯を舐めながら、太宰に巻かれた新たな包帯を指差した。

太宰「増えたねえ。」

太宰は自分の躰を眺めて嗤った。

織田「その脚の怪我の理由は？」

太宰「『不意の怪我をしない為に』って云う本を歩きながら読んでいたら、排水溝に落ちた。」

織田「ならその腕の怪我は？」

太宰「車で峠をぶっ飛ばしていて崖から落ちた。」

織田「その額の包帯は？」

太宰「『豆腐の角で頭をぶつけて死ぬ』と
云う自殺法を試した。」

織田「豆腐で怪我をしたのか？」

もしそうだとしたら、かなり絶望的なカルシウム不足だ。

太宰「豆腐を堅くするため、独自の製法を編み出したのだよ。塩で水分を抜いたり、重しを載せたり...自前の厨房でね。おかげで釘を打てるほど堅くなったし、組織の誰よりも豆腐の製法に詳しくなった。」

マフィア幹部が製法からこだわった豆腐作り。矢張り五大幹部ともなる男はやることの格が違った。

織田「その豆腐はうまいのか？」

太宰「悔しいことに...」

太宰は顔を顰め、不本意そうな顔をした。

太宰「薄く切って醤油で食べると、物凄く美味しい。」

織田「美味いのか...今度食べさせてくれ。」

？「織田作さん...今のそれ、突っ込む所ですよ。」

入口の方から声がした。振り返ると、学生風の青年が階段を降りてくる所だった。