波間のブルー(ss)二章完(移行へ) (ページ6)

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「ふ、ふふふ…」

Aは突然笑った。
この状況で、馬鹿にするように？
あぁそうか。
俺がどうしてやろうかの問題じゃない。
俺の方が、こいつにいいように遊ばれてるだけなんだ。
そう気づいたら、虚しかった。
自分勝手だろうと何だろうと…

「…戻るわ。宿。なんか疲れた」
「待って？翔」

パドルを掴んだ俺の手の上に重なる手。
再びそう呼ばれる喜び。
こんなの、まんまと弄ばれてるのに…
ひとつひとつに、心臓が反応する。
胸の中が、カッと熱くなる。

「私がここに連れて来たかった本当の理由なんだけど」
「本当の…」
「この海にはね…たくさんの人が眠ってるの」
「は…！？ちょっと、そういう冗談」
「ううん！全然怖い話じゃない。聞いてくれる？」

いきなり逃げ場の無いホラー話を聞かされるのかと思った。
Aの笑顔が、逆に怖くて。
俺は鳥肌を立てて。
さっきまでとは違うドキドキに襲われた。
そんな俺の様子を見て、Aは両手で俺の右手を包んだ。
自然と、パドルからは手が離れた。

「翔の手は、温かいね」
「…何だよ。急に」

つい不貞腐れたように言ったけど。
本当は、その行動が嬉しかった。
Aの手の温もりを感じると、一気に落ち着いた。