【d!企画】汝は人狼なりや？【前編】 (ページ8)

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【ut】月光エゴイスティックページ8

※死ネタ注意

目の前に立つ少女は、触れたら消えてしまいそうな儚さを持っていて。
僕は一瞬で、彼女に心を奪われた＿＿

数日前、僕らはこの村にやってきた。
そこで出会ったのが彼女＿Aだった。

彼女に一目惚れをした僕は必死に彼女に気持ちを伝え続け、ある日彼女はぎこちなく、けれど嬉しそうにはにかみながらこくりと頷いた。

彼女と過ごす日々は比喩でもなんでもなく、虹色にきらきらと輝いていた。

公園でピクニックをして、彼女に似合うアクセサリーを探して、2人で一緒に夜ご飯を作って。

今日も彼女と手を繋ぎ、街を歩く。
見るもの全てに目を輝かせる彼女の瞳は美しかった。

「ねぇねぇいいにおいする。これ、なぁに？」
「A知らへんの？これな、パンって言うねん」

見た目の年齢にしてはあまりに無知で、純真な彼女に僅かな違和感を掻き消す程の優越感を覚える。
彼女の世界に僕の手が、言葉が、色をつけているのだ。

「食べたい？」
「うん！」

勢いよく頷いた彼女に頬を緩め、その店に足を踏み入れると、焼きたてのパンの温かい香りが鼻腔をくすぐる。彼女が気になっていた様子のクロワッサンと、クリームパン、ほかにもいくつかを買って上機嫌で店を出た。

村から少しはずれた小さな森のなか。
少し開けたところで、切り株に腰掛け紙袋を開く。

2人並んでクロワッサンを齧れば、さくりとした生地から染み出すバターの塩気。絶妙なバランスのそれはたちまち2人を笑顔にする。

「！これすっごくおいしい！」
「ほんまに美味いなぁこれ」

もぐもぐと咀嚼していると、何となく浮かぶいつかの夢。

「僕な、いつかパン屋やりたいねんな。かわいい奥さんと」

それが君だったらいい、なんて言葉は飲み込んだ。
きっと彼女にはまだ届かない。そんな気がして。

ごくんとパンを飲み込んだ彼女は、ちいさく呟いた。

「わたしはねぇ、結婚したい。結婚して、旦那さんと、しあわせに生きるの」
「ふつうにいきられたら、それでいい」

祈るような彼女の言葉が心の臓に届く。

それは、切なる願いだった。