願い ページ8
.
Aside
……ずっと。
ずっと願ってた。
治がこちらを向いて、ちゃんと目を合わせて会話すること。
やっとのことで叶ったそれは
感動的だなんて、到底いえるものじゃなくて。
睨むような鋭い眼光に、聞いたことのないような低い声。
凄まじいその雰囲気に、思わず1歩下がってしまう。
……これまでも、喧嘩とかで怒った治を見た事はあった。
でも、今の彼を見ると
それは可愛いものでしかなかったって、痛感させられる。
本気だ。
……本気で、怒ってる。
震える唇をなんとか動かして、彼に尋ねた。
A「……聞いてたの、?昨日のこと……」
治「そりゃ、あんな分かりやすいとこで話されたら、いやでも聞こえてくるわ。」
A「治、あれは、──!!」
治「あれが答えなんやろ?」
A「え、」
治「お前には好きなやつがおって、俺となんか考えられへん。俺の気持ちなんか無いも同然。返事延ばしとったのも何かの気まぐれか?」
A「ちが、」
治「何が違うんか言うてみろや!!!」
A「……っ、!」
荒ぶった声に、思わず肩をビクつかせた。
その様子に一瞬ハッとしたのか、
はー、と大きなため息をつきながら頭をかく治。
治「……なんで……俺の気持ちまで、否定されなあかんねん。」
A「……あ、……」
『治くんが及川さんをってのも……』
『それもないって。治のタイプ、華奢な……』
思い出される、昨日の会話。
知らぬ間に治の気持ちを否定していたことに、
後悔が押し寄せてきて。
だめ
泣くな、私。
泣きたいのは治の方だ。
治「思わせぶりなことして、楽しかったか?」
A「……そんなこと、」
ああ、声、震えてるや。
治「…いちいち期待した自分がアホみたいやわ。」
A「お、さむ、」
治「もうお前の気持ちは分かったし、返事も要らんから。」
そう吐き捨てると、踵を返して歩き始めた治。
止めなきゃ。
動け、口。
ねえ、声出てよ。
今言わなきゃ、取り返しつかなくなるの。
お願いだから。
A「ま、……って………」
やっとのことで出たのは蚊の鳴くような声で。
視界が歪んで、治の後ろ姿なんてとっくに見えなくなってることにも気づかないで。
線を切ったように零れ始めた雫が、コンクリートの地面を濡らした。
.
1411人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無し86757号(プロフ) - いつかのイラストを描いていた者です。2年ぶりに最初から読みましたが本当に素敵な作品でずっときゅんきゅんしています。いつまでも待ってますのでこの素敵な恋を素敵な形で完結していただきたいです。 (9月5日 21時) (レス) id: 717f7bf83d (このIDを非表示/違反報告)
_zh(プロフ) - 面白い作品ほど作者が失踪するジンクスを実感しています。いつか戻ってきてくれるという淡い期待を持ちながらお気に入り登録しますね。 (8月30日 21時) (レス) @page43 id: d3a24f0cd7 (このIDを非表示/違反報告)
カービイ - ぼ、僕も!!!お話すごくおもしろかったので更新待ってますね。頑張ってください!!! (2022年8月5日 21時) (レス) @page39 id: 16e8e39b36 (このIDを非表示/違反報告)
サリア - 続き待ってます (2022年8月3日 4時) (レス) @page39 id: cceeb02c56 (このIDを非表示/違反報告)
サリア - 涙線崩壊してまった,,,この作品好き過ぎる (2022年8月3日 3時) (レス) @page29 id: cceeb02c56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:らな。 | 作成日時:2021年2月13日 0時