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ようやくその重い口を開いた月島の口調は、いつになく硬かった。緊張しているような、躊躇しているような。珍しい。
「言いにくいんだけどさ」
「うん?」
「人が人を忘れる時、一番最初に忘れるのは声だって、聞いたことがある」
一瞬、月島が何を言っているのか理解できなかった。ようやくその意味を咀嚼したときには、心臓がうるさく存在を主張し始めていた。
「そんなわけないよ、だって、私、覚えてる……」
「あいつの声、思い出せるの」
――思い出せない。
答えが出た瞬間、死にたくなった。彼の言動、私たちが駆け抜けたあの日々のこと、覚えてる。ただ、そこからはすっぽりと彼の声が抜け落ちていた。なんとか思い出そうと記憶の奥まで潜ろうとしても、うるさいセミの声に邪魔されてしまう。ひどい焦燥感に襲われた。喉が、カラカラに乾く。
「ちょっと、」
月島が何かを言おうとしていたけれど、通話を切ってしまった。怒らせてしまうだろうけど、今はそんなことどうでもいい。
なんで。どうして。忘れられるはずがないって、そう思っていたのに。そう感じる反面、諦観に似たものもあった。もう長いこと彼の声を聞いていない。人を忘れ始めるには十分だろう。それでいつの日か、声だけでなく、彼の全てを忘れてしまうのだ。そんなことを考えている自分が、一番許せなかった。
暑いのに、寒い。頬を伝ったのは冷や汗か脂汗か。わからない。
机の上に手を伸ばした拍子に薙ぎ倒してしまったのか、カレンダーが情けない音を立てて落ちた。それに目もくれず、衝動に任せて数枚のルーズリーフを乱暴に広げる。そのまま性急な仕草でペンをノックした。その音でさえ、今は煩わしかった。
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さかき(プロフ) - 莉葵さん» ありがとうございます!次の作品もぜひ読んでやってください〜 (2020年5月31日 12時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - 追記.応援してます!新作できたら、教えてくださいね(^^)日向愛が溢れちゃってます汗 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - すごく良いお話でした!感動しました!日向を見る目が少し変わった気がします笑 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - Ria*さん» 励みになります、ありがとうございます!日向いいですよね… (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 依さん» 依さんありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです!こちらこそまた読んでやってくださいな!! (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2020年5月29日 16時