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ざあっと風が吹き抜けた、そのタイミングで夢から覚めた。なんとなく、本当になんとなく、スマホを手繰り寄せて月島に電話をかける。
すぐに後悔した。彼は恐らく、無意味な会話を世界で三番目くらいには嫌悪する。しかし、私が通話を切ろうとしたタイミングより、彼が出るほうが早かった。こんなときに限って!
「なに? なんか用?」
「あー、えっと……はは……」
電話越しだからか、月島の声はいつもよりも少し高く聞こえて、やたらと高圧的に感じられた。なんでもありません、とは言えそうにない。必死に話題を捻りだす。
「月島ってさ、少女漫画読む?」
「いや、無いけど……何?」
「そうだよね……あのさ、少女漫画って結構運命的な関係が多いの。私は、別にそんな恋をできなくてもいいと思ってた。なんていうかうまく言えないけど、私たちは特別じゃないと思ってたんだよ」
選手とマネージャーが、なんてよくある話だろうし。普通に、高校生らしく付き合ってたし。そんな私の考えを、かつての彼は肯定した。そして、しかしと言うべきかだからと言うべきか、それを否定したのもまた彼だったのだ。
「でも、違った。特別じゃなかったのは私だけ。日向は、間違いなく特別だったよ」
月島は、黙って私の話を聞いていた。一度エンジンがかかった口は止まらない。
日向はいくらでも飢えていた。全国三位なんかじゃ、全然満足できなかった。日向はいわゆる天才じゃないかもしれないけれど、そういう意味では怪物のような男だった。
「だからね、自信がなくなっちゃったんだと思う。うん、私、自信無いよ。日向の隣を歩ける、自信がない。だから、何もできなかった」
寂しくないわけがない。彼が心配にならないわけがない。けれどついぞ連絡はできなかった。連絡先はちっぽけな筐体の中に確かに存在するのだから、それをタップすればいいだけの話なのに。あるいは、月島や山口、やっちゃんに彼の近況を聞いても良かったのに。何が正しいのか、そんなことばかりを考えて、眠れぬ夜を過ごした。
「初めて聞いた」
「そうだっけ」
「そうだけど。で、なんでそんな話をする気になったわけ?」
「あー……夢を見たの。ブラジルに行くんだって言われたときの夢。なんか変な夢だったよ、他の音は聞こえるのに日向の声だけ聞こえないの」
暫く、無言の時間が流れた。考え込んでいるような、そんな空気が電話越しから伝わってきたから、私はただ大人しく次の言葉を待っていた。
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さかき(プロフ) - 莉葵さん» ありがとうございます!次の作品もぜひ読んでやってください〜 (2020年5月31日 12時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - 追記.応援してます!新作できたら、教えてくださいね(^^)日向愛が溢れちゃってます汗 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - すごく良いお話でした!感動しました!日向を見る目が少し変わった気がします笑 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - Ria*さん» 励みになります、ありがとうございます!日向いいですよね… (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 依さん» 依さんありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです!こちらこそまた読んでやってくださいな!! (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2020年5月29日 16時