計算じゃないんだからタチが悪い ページ13
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なんてことのない高校生二人の三年間を描いた、なんてことのない小説である。それでも、この物語についてなら何時間でも語れるような気がした。
「へえ、本当に宮でも泣くんだ」
「いや、俺のことなんやと思うとん? 人でなし?」
冗談めかして言ったつもりだったのに、朝原さんにぴかぴかした瞳のまま頷かれて俺は硬直した。
女バレの友達がね、侑は本当にポンコツだって言ってた。そう笑う朝原さんは恐らく、その情報を信じていないのだろう。我ながら、俺は彼女の前だと驚くほど大人しい。
「朝原さんのが意外やけどなー、いっつも冷静やん」
「顔に出にくいだけだよ」
「ああ、なんやごっつ俺のこと褒めよったりなあ」
好きなん?とこれまた冗談めかしてひそかに剛速球を投げてみる。しかし、それは真面目な顔をした彼女にカキーンと音を立てて打ち返された。
「好きだよ」
記録に残る場外ホームランである。俺の心の中の全米がスタンディングオベーションした。
筋肉が言うことを聞かない。脳もあと三秒でシャットダウンします、さーんにーいーちという感じだ。
「お友達だもの」
「……そっちかーい!」
おやめくださいお客様、無理やり再起動したら壊れてしまいます。
腹から出た声が教室に響き渡り、一瞬しんと静まり返る。しかしそれは本当に一瞬で、なんだまた侑かと騒がしさを取り戻す。目の前の元凶も平然とした顔を崩さなかった。
おかしい。これだけ王道、かつ直球でいけば、慌てて否定するだの盛大に照れるだのするはずだった。いや、朝原さんにそれは高望みしすぎだろうか。とにかく、その頬を染めさせることすらできないのは予想外である。
「お友達はみんな好きだよ、というか好きだからお友達なのかな?」
あれ、もしかして宮は私のこと嫌いだった?と小首を傾げる彼女はなんなんだろう、純粋培養の箱入り娘か何かなのだろうか。
「ごめんね、やっぱり『お友達』嫌だった?」
「い、嫌ちゃうよ」
「そっか、じゃあ好き?」
「ええ……それ言わすん?」
たたらを踏むも、先に言わせたのは俺である。暫くして腹をくくった。
「……好きやで……」
「声小さい、もう一回」
「鬼畜か!」
勘弁してほしい。遅れて朝練から帰ってきた銀が、信じられないものを見る目でこちらを見ている。目撃者が角名でも治でもなく銀だったことに感謝したいレベルだ。
嘘だよと呑気に笑う朝原さんに、俺が勝てる日は果たしてくるのだろうか。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時