真綿の策略【宮侑】

観察結果 ページ2

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　朝原さんについて、ここ一週間で分かったこと。
　
　下の名前はAというらしいこと。
　見た目の通り、物静かで真面目な性格だということ。
　滅多なことでは表情を動かさないこと。
　趣味は読書らしく、空いた時間は大抵本を読んでいること。
　出身が関西ではないのか、標準語で話すこと。
　友達がいないのかと思ったら、普段はお互いに好きなことをやっているだけで、どうやらいるらしいこと。
　そして――俺に微塵も興味がないらしいこと。

「朝原さん」

「なに、宮くん」

　俺が呼びかけると、朝原さんはすっと目線を上げる。これも最近知ったことだが、彼女は瞳がとても大きい。少しアンバランスに感じられるくらいだ。
　それに原因があるのか、見据えられると少々居心地が悪かった。なんというか、この人の前では悪さができんな、という気分になる。あえて分類するならば北さんタイプだ。彼らにそんな気はないのだろうが、周囲が勝手に気圧される。

　とにかく、俺のことを意識しているやつがそんな目を向けてくるわけがない。「照れ屋」という仮定は机上の空論に終わった。

「宮くん？」

「いや、やっぱりなんでもないわ。ゴメンな」

「そう？」

　少しだけ怪訝そうな顔をしながら、また読書を再開する。

　へんなやつ、という言葉が脳内で木霊した。
　隣席生活七日目。彼女は学校にいる時間のほとんどを授業と読書に費やしている。その生活サイクルが俺という存在で乱されることはないようだった。

「朝原さん」

「なに？」

「消しゴム貸してくれん？」

「いいよ、はい」

　せやけど嫌われてはないんよなあ、と手渡された消しゴムを見つめる。俺はしょっちゅう忘れ物をするし授業中も寝るが、彼女はそれとなく助け舟を出してくれた。相手が俺だからなんて理由ではなくて、それが当たり前だという顔をして。

　ますます変なやつ。消しゴムはオーソドックスな白で可愛げがなく、ただぴかぴかと輝いていた。

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