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ああ、よく寝た。うっすらと目を開ける。今は何時だろうか、思ったよりもすっきりしないな、寝起きのまとまらない思考が流れていく。
「……あ、起きたん?」
「……っ!?」
にゅっ、と視界に突然顔が入ってくる。介入者は治くんだった。慌てて仰け反る。
「おはようさん、もう昼やで」
嘘、とかなんとか言おうとして、……おかしい、声が出ない。
不思議そうな顔をしている治くんに、声が出ないことを伝えようとする。唇を指して、それから指でバッテンを作った。
不意に、治くんの顔が近づいてくる。何をしているんだ、この男は。光の速さで横に這って距離をとる。
「……あれ? ちゅーしてほしいんかと思うたのに」
そんなわけあるか! ブンブンと首を横に振って否定の意を示す。唇じゃなくて、喉を指すべきだった。
……そうだ、スマホを使えばいいじゃん。ポケットから取り出して、メモを開く。電光石火で文字を打ち込んだ。
『声が出ない』
「なんで?」
『わかんない、大声出したから?』
治くんは首を傾げながら、缶コーヒーを差し出してくれた。喉を潤せ、ということか。親切にも、プルタブはもう引かれている。
「あ、それ、もう一口飲んどるけどごめんな」
「ゲホッ」
なんてことをしてくれたんだ。思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。ああ、気管に入った……!
断続的に咳き込みながら、治くんを睨む。気管も痛いし喉も痛いしで最悪だ。
「なあ、それ風邪ちゃう?」
『そうかな』
「喉からくることもあるし、ここんとこ暑かったり寒かったりで安定せんかったやろ」
確かに、この身体のだるさは風邪特有のものな気がする。治くんの大きな手のひらが私の額に当てられても、もう照れるような元気はなかった。
「やっぱ熱いで、保健室行こか」
何とか立ち上がる。目眩がした。
「おぶる。キツそう」
『悪いからいいよ。歩く』
「ええから。カッコつけさせてや」
その言い方、ずるい。普段至って健康体なのが災いしてどうすればいいのか分からないし、……ああもう、どうにでもなれ。治くんの背中にぎゅっとしがみついた。
鍛えられた身体は、どうやら女ひとりの体重くらいどうってことないらしい。……ダメだ、余計に熱が上がる。
やがて、人通りの多い廊下に出る。ああ、なんで保健室は一階の端っこにあるんだろう。治くんはただでさえ目立つののに。今日だけで一生分の注目を集めた気がする。
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さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか?あるようでしたらボード?にお願いします (2019年9月19日 7時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…( ; ; )本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー!好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです!治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです! (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ!!!めっちゃくちゃ好きです!!!番外編も嬉しいですありがとうございます!!治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです!満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください!お粗末さまでした! (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年8月9日 17時