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治くんは何も言わない。だから、勝手に言ってしまおう。言わなきゃいけないことが、いっぱいあるんだ。
「おさ、治くん。勝ったね。おめでとう」
みっともなく声が震える。ああもう、あとでどれだけ大泣きしたっていい。今だけがんばれ、私の涙腺……！
「競った試合で、はらはらしたよ。でも、信じてた」
四月、新入生が入ってきた。侑くんに新入生はどう、粒ぞろいですかと聞いたら、「俺のセットがあったら誰でも優秀や」と言われた。なにそれ、答えになってない。
八月、インターハイは二位という結果で幕が下りた。悔しくて悔しくて、でも、二位では満足できないというその姿勢に奇妙な安心感を抱いたことを覚えている。
十一月、侑くんの機嫌がやたら悪い日があった。聞けば、オーバーワークを治くんに注意され、そこから喧嘩に発展したらしい。そりゃあ怒られるよと言ったら、今そういう正論いらんねんと不貞腐れた。それもそうだ。
「知ってるよ、だって今年、私ずっとバレー部のこと観てたもん」
「思い出なんかいらん」と猛々しい黒の横断幕は言うけれど、過程に結果が伴ったら最高だ。間違いなく、忘れられない一年になった。
治くんが、さらに腕に力を籠める。
どうして何も言わないんだろう。いつもならお決まりのやり取りがあって、それさえ済めば解放してくれるというのに。
もしかしたら、試合後でまだ気が高ぶっているのかもしれない。顔は見えないけれど、いつもより大きな心臓の音と、少し苦しいくらいの腕がそれを裏付けているような気がした。それなら、大人しく抱きしめられていよう。
本当は逃げ出したい。曖昧な関係の男が、曖昧なままに私を抱きしめているのだ。逃がさないとばかりの力で。おまけに私は私で未練タラタラときた。でも、今は彼を労う気持ちの方が大きかった。
両腕は私にはハードルが高くて、片腕だけを彼の背に回して広いそこをぽんぽんと撫ぜた。驚いたのか少し力が緩んだので、そこからするりと抜け出す。
「今日も世界一かっこよかったよ、治くん。お疲れ様」
定番のそれを捨て台詞みたいにその場において、踵を返して走り出す。もうすぐ閉会式だ。治くんは追ってこなかった。
観覧席で下を見下ろすと、黒いユニフォームの中に見慣れた銀髪を見つけた。よかった、間に合ったんだ。応援に来ていた吹奏楽部の子たちと一緒に、掌が痛くなるくらいの拍手を送った。
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さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか？あるようでしたらボード？にお願いします (2019年9月19日 7時) (
レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…（ ; ; ）本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー！好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです！治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです！ (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ！！！めっちゃくちゃ好きです！！！番外編も嬉しいですありがとうございます！！治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです！満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください！お粗末さまでした！ (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さかき | 作成日時：2019年8月9日 17時
