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 ピッ、と短い笛の音。終わりを知らせる福音に、私は息を吐いた。終盤の怒涛の展開に、まるで呼吸を忘れていたみたいだ。
 少し遅れて、会場が一斉に湧く。耳をつんざく歓声に、現実をかみしめた。少し、鼻がツンとする。

「ありがとうございました!」

 黒のユニフォームに身を包んで、応援席に礼をするバレー部の面々。祝福を込めて、精一杯の拍手を送った。

 春高、東京の大きな体育館。早いもので、三年生にとって最後の大会を迎えていた。そしてこの瞬間から、彼らは「挑戦者」ではなく「王者」だ。

「角名くん、侑くんに治くん!」

 興奮しすぎて、ぼんやりとした頭を抱えて一階に降りる。人がごった返す中で目が冴えるような黒を見つけて、途端にはっきりとした意識の中で彼らに駆け寄った。

「ちょ、なんで泣いとん!?」

「え? ……あ」

 ぎょっとした顔の侑くんにそう聞かれて、初めて自分が泣いていることに気が付いた。気付いてしまったら、もう止まらない。

「お、おめでとうぅ〜……!」

「泣き方汚っ」

 角名くんが今ユニフォーム姿でよかった、スマホ持ってたら絶対撮られてた。沸騰したような頭の片隅に存在する冷静な部分でそんなことを考えていたら、なんと奴は羽織っていたジャージのポケットからスマホを取り出しやがった。何か言おうにも、喉が震えてうまく言葉にならない。せめてもの抵抗に顔を逸らす。

「泣かんでもええやろ」

 呆れたように笑った侑くんが、私の頭をぐりぐりと撫でる。相変らず、指、長い。そして厚い掌。研鑽を積んで、そして勝利を掴んだ手だ。そう思うとさらに泣けてきて、私は鼻をずびずびと啜った。

「A」

 柔らかい声で、治くんが私を呼んだ。名前を呼ばれるのは久しぶりだ。私はのろのろと彼を見上げる。
 私の手を取って、彼はすたすたと歩きだす。後ろから、侑くんの閉会式までには戻れよという声と、角名くんのシャッター音が聞こえる。

 時の人である治くんはよく目立つ。半歩後ろに連れているのが女子で、泣いていて、手をつないでいるといればなおさらだ。ざわつく人々の中を、治くんはするすると抜けていく。私は霞む視界をどうにかしようと、それだけで精一杯だった。

 連れてこられたのは体育館の裏。人のいないそこで、いつも通り抱きしめられた。

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さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか?あるようでしたらボード?にお願いします (2019年9月19日 7時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…( ; ; )本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー!好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです!治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです! (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ!!!めっちゃくちゃ好きです!!!番外編も嬉しいですありがとうございます!!治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです!満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください!お粗末さまでした! (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さかき | 作成日時:2019年8月9日 17時

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