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自嘲(じちょう)した笑みに、何も言えなくなった。続きを紡ぐことができなくなった。――あのときと同じだ。赤葦を手招きで誘って、ひたすらに没頭とした夏休み前日のはなし。Aが、真白のキャンバスに向き合いながら呟いた、謎めいた一言と。風貌も仕草も、落とされる声音のトーンも。性別だって異なっているというのに、国見に抱く心象はAに酷似している。これ以上、追及を許さない。そんな野性的な鋭さが、途轍もなく似ていた。

「Aが自 殺すること、たぶん俺は知ってました」
「……なッ」
「Aの誕生日、覚えてますか?」

落ち着いた相好に似合わず、赤葦の抗議は掻き消された。被せられた問いに、海馬を掘り起こした。深海の底から拾い上げた記憶、Aに呼び出された猛暑の続いた天候の日。赤葦は浅く「八月十五日」と、回答を導き出した。

「そう、十七歳の誕生日。Aは独りで死ぬと決めていた。復讐のために」
「どうして復讐なんてッ、いったい誰に」
「父親ですよ」

間髪(かんぱつ)入れずに飛んできた単語に、頭を鈍器で殴られたようだった。父親に対する復讐? そのための自死だった? どうにも上手に呑み込めない。(たん)が喉に絡まりついたみたく、催促の言葉が発せない。

「ここにいる子はみんな、家族との間に溝を持っている。血縁の絆から見放された子供ばかり。俺とAもそうだった。ただ――、Aに関してはもっと悪質でした」

Aが児童養護施設である光園に入所したのは、中学一年生になろうという春先でのこと。すでに小学校 低学年の頃から預けられていた国見の前に、年配の職員が連れてきた。少女らしい小柄さと肌の白さが相まって脆弱(ぜいじゃく)とした第一印象。ふんわりと揺れる清楚そうなワンピースが、明らかに値の張るものであることも感じて、一層と何故ここにいるのだろう。と、思ったくらいだった。

「名前、教えて」
「A。呼び捨てでいいよ」

「仲良くするのよ」と、二人の髪を撫でた大人がいなくなる。子供だったからか、動揺することもなかった国見はすぐさま " 仲間 " と認識して手を差し出した。思春期に差し掛かる少女にしては、完成された笑みでAも手をとった。

年齢の近かった二人が行動を共にするのは、必然だったのだろう。定位置となった両者の隣が以外にも心地よかった。相性抜群なわけでも、性格が類似していたわけでもなく。ただ、一緒にいることにこそ意味があった。
 

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設定タグ:ハイキュー , 赤葦京治 , 悲恋   
作品ジャンル:恋愛
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百合郷(プロフ) - YBCさん» 実は、お恥ずかしい話、特段読書にも日常触れないことが多いです…。笑 、ただ、某小説サイト(pから始まる)なんかでは、好みの作風のものを拝読していたりします!語彙力は、段々と身についていくものですよ!あとは、類義語なんかを調べてみるのもひとつの手かも! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - YBCさん» 初めまして、こんばんは。描写には、人一倍気を遣っているつもりなので、そう言ってもらえると嬉しいです!夢主の存在が、いつの日か赤葦くんのなかで、大きくなっていく。自然に描けていたらと。笑 、語彙力に関しては、特別に何かをしているわけではございませんよ! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
YBC(プロフ) - 初めまして。描写の仕方がとても美しいなと感じました。彼女に感化されているのか、赤葦の心の中が彼女が好きなもので比喩されているのが個人的にすごく萌えました…!語彙が豊富でいらっしゃいますが、語彙力を培うために何かされているのでしょうか? (2020年4月18日 10時) (レス) id: 79ac75a530 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 白子黒子さん» こんばんは。心温まるお言葉の数々、ありがとうございます。赤葦くんの性格等は、私の勝手な想像と願いでもあります。笑 、人の死という、身近でいて遠い存在に感化されると同時に気付くことは、沢山ありますよね。 (2020年3月10日 19時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
白子黒子(プロフ) - とても素敵なお話でした、ありがとうございます。私はハイキューについて詳しくないですし、赤葦くんも名前しか知らないのですが、とても楽しく読むことができました。人の死をここまで貶さず描ききれる文章力が素晴らしいと思います。 (2020年3月9日 23時) (レス) id: 5bfad2b21a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:百合郷 | 作成日時:2019年10月26日 13時

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