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「どうぞ、上がってください」
「お邪魔します」
礼儀正しく磨かれたローファーを玄関先で脱ぐ。見慣れた光景であろう一軒家のなかを案内するのは、" 国見英 " と名乗る少年だった。
" 光園 " 玄関扉、縦長に張り付けられた表札。書き記された習字の文字は、どことなく細かい傷の入った年季ものであった。山奥に空間距離を開けながらも設けられた幾つもの一軒家を、赤葦は一瞬で理解した。世間一般的に『児童養護施設』と呼ばれるここには、先ほどから年端もいかぬ子供たちが、ひっきりなしに物珍しい客人である赤葦を警戒した様子で眺めていた。
「答え合わせ、じゃないんですけど。ここは俺たちが育った場所なんです」
「俺たち、というのは……?」
「Aがいた。ここに、ずっと昔の話ですけどね」
歩みを進めていた足が止まった。一枚の扉を前にして。慎重そうにドアノブを回す姿が、やけに印象的に散らばった。もう一度、今度は言葉のない容認を受け取りながら。赤葦は国見に続いて夕焼けに染まる一室に足裏を踏み入れた。
「これは……?」
「ああ、Aの。最近のじゃない」
最近のモノだとしたら、たぶん存在していないだろうから。静寂とした部屋に落とされた声は、到底にも難解な回答だった。確かめるように色褪せたキャンバスを、国見はなぞる。少年にしては繊細な印象を与える人差し指の動きは、どこか慈愛すら感じさせながら。
だからこそ、どうしようもなく不釣り合いだった。赤葦の目線の先、水晶体に映る一枚の絵画は
「描けないんですよ、Aには。世界の色を乗せることができない」
「でも彼女は、……!」
「すべて、どうでもいいものだったはずなんです。きれいでうつくしい。そういう風景はもう、Aには描けなかった。適当な理由をつけて動物とかは描いてたみたいですけど」
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百合郷(プロフ) - YBCさん» 実は、お恥ずかしい話、特段読書にも日常触れないことが多いです…。笑 、ただ、某小説サイト(pから始まる)なんかでは、好みの作風のものを拝読していたりします!語彙力は、段々と身についていくものですよ!あとは、類義語なんかを調べてみるのもひとつの手かも! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - YBCさん» 初めまして、こんばんは。描写には、人一倍気を遣っているつもりなので、そう言ってもらえると嬉しいです!夢主の存在が、いつの日か赤葦くんのなかで、大きくなっていく。自然に描けていたらと。笑 、語彙力に関しては、特別に何かをしているわけではございませんよ! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
YBC(プロフ) - 初めまして。描写の仕方がとても美しいなと感じました。彼女に感化されているのか、赤葦の心の中が彼女が好きなもので比喩されているのが個人的にすごく萌えました…!語彙が豊富でいらっしゃいますが、語彙力を培うために何かされているのでしょうか? (2020年4月18日 10時) (レス) id: 79ac75a530 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 白子黒子さん» こんばんは。心温まるお言葉の数々、ありがとうございます。赤葦くんの性格等は、私の勝手な想像と願いでもあります。笑 、人の死という、身近でいて遠い存在に感化されると同時に気付くことは、沢山ありますよね。 (2020年3月10日 19時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
白子黒子(プロフ) - とても素敵なお話でした、ありがとうございます。私はハイキューについて詳しくないですし、赤葦くんも名前しか知らないのですが、とても楽しく読むことができました。人の死をここまで貶さず描ききれる文章力が素晴らしいと思います。 (2020年3月9日 23時) (レス) id: 5bfad2b21a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:百合郷 | 作成日時:2019年10月26日 13時