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錆の花は黙して語らず ページ6

 
――あれから一か月が過ぎた。人の噂も七十五日というけれど、案外とそうでもないのだと知った。A自身、特定の人物と共に行動をしていたわけでもない。友人と呼べる存在は、希少なのだと。生前の彼女も言っていた気がする。
初めは、そう。ぽかんと空いた空席に何本もの彩を飾った花瓶が立っていた。夏を代表とする季節ものの小振りな向日葵が。当日の日直が水替えをする決まりさえできたくらいだった。新しく仕事として課せられた事象。最初のうちは機能していたよう思う。それが誰でもない、たったひとりの「面倒臭い」の一言で終わりを告げた。不謹慎だなんだと、ふざけ半分で騒いでいた男子生徒も三日後には、全てを忘却(ぼうきゃく)の彼方に飛ばしたように、花瓶に一度も触れなかった。

人間は忘れ去ることで生きている。過去の後悔や羞恥心から。他人に聞かせるわけでもない、心中での懺悔(ざんげ)を軽々しく募らせて。謝った気になっている。許された気になっている。全部、不確かで確信めいたものなどないというのに。

机に積もった微小な塵を、(てのひら)全体で払い除ける。目に見える形で付着したハウスダストが煩わしくてたまらない。潔癖症の兆候(ちょうこう)がなくてよかった。今日も赤葦以外では機能しなくなった役割を淡々とこなしていく。真水のなかに、水切りを終えた茎を浸す。一本だけ繊細に咲く花の名は、ネリネだったか。彼岸花に似たこの花を店先で見つけたとき、一目で鞄から財布を出した。
浅学菲才(せんがくひさい)で知識もなく、さして興味も沸かない植物を前に、迷わなかったのはいつ振りだっただろうか。作業と化したそれを終了させてから、校門を潜る。

木兎さんとの関係は、結果的に今も良好だ。部活に支障もない。あの時間以来、むすっとした様子ではあったけれど、放課後にわざとらしく傍に寄ってきては「ん!」と、二本セットのアイスを奢ってくれた。言い合いを延長させるわけでもなく、毎日のように俺のトスを気持ちよく打ってくれている。こういうさっぱりしたところが好ましいな、なんて。柄にもなく助かった。

色々と思考しながら校門を通り抜けた、そのとき。腕を緩い力で掴まれる。

「赤葦さんですよね」

拒否権はない。と、言わせんばかりの真っすぐとした瞳がこちらに集中している。逸らしてはいけない。それだけは、分かった。

「そうだけど」
 

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設定タグ:ハイキュー , 赤葦京治 , 悲恋   
作品ジャンル:恋愛
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百合郷(プロフ) - YBCさん» 実は、お恥ずかしい話、特段読書にも日常触れないことが多いです…。笑 、ただ、某小説サイト(pから始まる)なんかでは、好みの作風のものを拝読していたりします!語彙力は、段々と身についていくものですよ!あとは、類義語なんかを調べてみるのもひとつの手かも! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - YBCさん» 初めまして、こんばんは。描写には、人一倍気を遣っているつもりなので、そう言ってもらえると嬉しいです!夢主の存在が、いつの日か赤葦くんのなかで、大きくなっていく。自然に描けていたらと。笑 、語彙力に関しては、特別に何かをしているわけではございませんよ! (2020年4月20日 21時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
YBC(プロフ) - 初めまして。描写の仕方がとても美しいなと感じました。彼女に感化されているのか、赤葦の心の中が彼女が好きなもので比喩されているのが個人的にすごく萌えました…!語彙が豊富でいらっしゃいますが、語彙力を培うために何かされているのでしょうか? (2020年4月18日 10時) (レス) id: 79ac75a530 (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 白子黒子さん» こんばんは。心温まるお言葉の数々、ありがとうございます。赤葦くんの性格等は、私の勝手な想像と願いでもあります。笑 、人の死という、身近でいて遠い存在に感化されると同時に気付くことは、沢山ありますよね。 (2020年3月10日 19時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
白子黒子(プロフ) - とても素敵なお話でした、ありがとうございます。私はハイキューについて詳しくないですし、赤葦くんも名前しか知らないのですが、とても楽しく読むことができました。人の死をここまで貶さず描ききれる文章力が素晴らしいと思います。 (2020年3月9日 23時) (レス) id: 5bfad2b21a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:百合郷 | 作成日時:2019年10月26日 13時

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