坂田銀時【月ヶ瀬ましろ】 ページ8
_____
____
___
…。
春の麗らかな陽気に気を良くして柄にもなく散歩に出向いたのが間違いであった。
その日は意気込んで回したスロットがハズレにハズレ、春の夜の肌寒さに負けない懐の寒さを誤魔化すように日当たりの良い川沿いの道を歩いていたのだ。花の綻ぶ間際の桜並木の下を歩くのも風流なもので、負けた悔しさも忘れつつあったその時だった。
「ぎゃうっ」
「うぉっ!!」
ドスン、と腹部に掛かる重い衝撃に思わずよろけた。しかし、三十路手前でもまだぴちぴちなんだと己に言い聞かせ、何とか飛び込んで来た子どもの体を受け止めた。齢3つ程の女児が鼻の頭を抑えて「うぅ…」と唸っている。
「あっぶねェなオイ、ぶつかったのが銀さんだったから良かったものの?これがチンピラだったりしてみろ、あれよあれよと言う間に吉原行きか臓器売買に出されてたぞクソガキ」
「ご、ごめんなさい…」
可哀想なことに女児は完全に萎縮していた。そのどろりと濁った目を見る限り、まだチンピラにぶつかった方がマシだったかも知れないとさえ思う。感情の読み取れない瞳が何よりも怖い。
そっと男の顔を窺って何とか逃げるタイミングを探すが、それも無理そうであった。そもそもそんな度胸は持ち合わせていない。かと言って集られた際に差し出す金品もない。懐を確認するが食べかけのお菓子しか入っていなかった。
すると、そんな女児の視線に気付いたのか男は口を開いた。
「ンだよ、ガン飛ばしてんじゃねーよ」
「あっ…ごめんなさい……」
「あぁ、銀さんの三枚目フェイスに見惚れたんだろ、残念ながらガキンチョは範囲外…」
「ちがいます全然そんなんじゃないです」
驚くほどの早口だった。
まさか自分がこんなに早く喋れるとは思ってもみなかった女児は一人ぽかんと阿保面を晒していた。それを男は「いい度胸じゃねーか」と頬の神経をひきつらせている。地雷を踏んだ。
「わっ私お母さんに呼ばれてるから帰らなくちゃ…」
「待てよ」
逃げるが勝ちだ、即座に踵を返して男の元から立ち去ろうとした女児は男の筋肉質な腕によって、しっかりと捕まれていた。女児の頭の中では数分後には実験台の上で一人怯える自身の姿が映し出される。もう、心臓一つでは許して貰えないかも知れない。
「おっお母さーん!!助けてー!!」
「ちょっ…」
「Aはここだよー!!悪いおじさんに捕まってるのー!!!」
その一言に男は目を見張った。
110人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時