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「──同じ?」
興味深げな高杉さんの声に「そうですよ」と返す。そう、同じなのだ。
「私の目から見たら、生きている人間も死人も、落ちている埃だって同じなんです」
もっと言えば善人も罪人も、どんなものも同じだ。“その他大勢”というレッテルから逃れているのなんて、それこそ月と、あとひとつくらい。
隣で吐き出された煙管の煙に眉根を寄せながら、ちらり、私が薄暗い空を見上げてみると。
「──あぁ、月」
水平線の向こうで、ゆらり、昇る光があった。さすが一年に一度のこの日というだけあって、その輝きは格別に思える。
宵闇に浮かぶ白へ釘付けとなった私を、それとはまた別の白を纏う彼は静かに見下ろしていた。
「……月でもみたらどうです?高杉さん」
「気が向いたらなァ。それより──てめェ、人も埃も変わらねェと言ったが」
肝心の月はどうなんだ、と。
つまり、月はその他大勢に含まれるのか、月は特別なのか、と。
「──愚問ですね」
だって、それこそ私が月を待っていた理由だもの。月と、あともう一つの格別なものは、どうしてかこの目にも綺麗に見えてしまう。
私の答を聞いた彼は愉しそうに笑った。そして、その右目に少しからかいの色をのせる。
「とってきてやろうか、お月さん」
「……私が、泣く子だと?」
頭に浮かぶのは有名な句である。不愉快を全面に押し出して言うも、「さァな」なんてはぐらかされてしまった。
(……遊ばれた。)
その屈辱に不機嫌と化した私は、苛立ちに任せて煙管を彼の指から抜き取った。そして、吸い口に口づけを落とす。
私から煙管への口づけは、時間にすればほんの数秒ほどで──その数秒ののち、白を彼の顔めがけて吐き出した。
「泣いてもいないし、大人でしょう」
煙とそんな言葉を受けても、高杉さんはやはりいつも通りを崩さないらしい。しなやかな指がこちらに伸びて、今度は私から煙管を奪ってゆく。
「……秋の風にゃ色がねェたァ、よく聞くが」
彼は私と同じように、白い煙をこちらへ吹きかけた。
「どうにも、誤りらしい」
それはそれは綺麗に、口角を釣り上げる高杉さん。……そう、綺麗なのだ。この人と月だけは、格別。
でも、ともかく──その言葉を聞く限り、少しのやり返しには成功できたようで。
「それは良いことを知りましたね」
頬を撫でた白が消えた頃、そこに浮かんだ私の笑みは、多分満ち足りたものだったのだろうと思うのである。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時