桂小太郎【しののめ】 ページ24
嵐山の紅葉を共に見に行こう、と約束していた。
近年は夏がいつまでもでしゃばって連日猛暑が続き、やっと秋かと思いきや、一足先に日本を襲うのは大寒波。なんていうふざけたご時世だ。
江戸で待ち構えているだけではせっかくの秋を取り逃がしてしまう。
旅行プランのパンフレットを眺めながらそんな話をしたのは、実に三か月前の話。
小太郎は視界を遮る艶やかな黒髪を耳に掛けながら、「ほう、これは見事だな。」と手元を覗いてきたのだ。
私はその、無意識に髪をよける仕草が一番好きである。女性的でいて、麗しい横顔。それらを隠すように流れる漆黒と、髪をよけた後に露わになるうなじがあまりにも扇情的で。
...思わず私の物にしてしまいたくなる。
京までは新幹線一本で行けてしまうし、革命家とは言えど無職みたいなもんだ。(本人に言ったら小一時間ほど攘夷について説教をくらった)抹茶スイーツと風情ある街並みを堪能できるくらいの有給休暇を叩いて、さあいざ近畿へ!と意気込んでいたのである。
しかし旅行の二週間前。
『過激派攘夷浪士、真選組との乱戦を経て今もなお逃亡中』というテロップが日本中のニュース番組を駆け巡り、新聞の一面を飾った。
最近では穏健派として認識され始めている小太郎だけれど、その日を境に、連絡が取れなくなっている。仕事を終えて缶ビールの一本でもあけていると、ふらりと私の家にやってきて、何事もなかったかのように週末を過ごす。そんな初めから不安定な存在であり、確約の無い関係ではあったけれど。
こんな形で姿を消してしまうとは思わなかった。
新幹線の席も旅館の部屋も、二人分とってあるのに。やけくそになって小太郎宛てに『早く帰ってこいばか!!』とメールを送ってやる。
もうしるか、あんなやつ。
携帯をソファーに投げ捨てて、ベットに飛び込んだ。枕を抱きかかえながら何だかんだいって用意してしまった二人分のスーツケースを睨みつける。壁のカレンダーには明日から三日間に赤い丸印がしてあった。
「小太郎にキャンセル料請求してやる。」
時間通りに駅に着くには起床六時は必須であるが、あえて目覚ましを掛けないで目を閉じる。
多分目を覚ました時には正午を回っていて、有給一日目をドラマでも見て無駄にしてしまうんだろう。
新幹線にできた二つの空席を思い浮かべ、虚しくなる。
「........ねよ。」
ひとりごちて、部屋の電気を消した。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時