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活気に溢れる屋台通りを二人並んで歩く。道行く色とりどりの鮮やかな浴衣と熱気に思わず目が眩みそうになった。花火見物の場所取りへと向かう人々に逆らって二人は歩いていた。
「沖田さんは見回りですか?」
「そんなトコでさァ、サボってやすけど」
「お祭りですからね、たまにはお巡りさんも息抜きが必要ですよ」
決して沖田の行動に苦言を呈さないAに好感を抱きつつ、沖田は「何か食べやすか?」と尋ねた。
「えっと…かき氷が食べたいです」
「分かりやした」
先ほど通った道にかき氷の屋台があった事を思い出して、沖田はそこに向かって歩き出した。少し離れてAが付いて行く。人通りは徐々に減っていた。
「そこのカップルさん!かき氷はどうだい?暑さも一気に吹き飛ぶよ!!」
屋台の店主は二人を見て快活に声を張り上げる。沖田は「残念ながらカップルじゃねェんです」と苦笑してかき氷を二つ注文した。
「味はどうするかい?」
「そうですねィ…俺はレモンで」
「Aさんはどうしやすか?」と沖田が振り返るとAは「沢山あって迷っちゃいますね…」と顎に手を当て悩んでいた。
最近の屋台は昔の屋台とは違ってかき氷一つを取ってもバリエーションが多彩である。イチゴやレモン等の定番のフレーバーは勿論のこと、中には桜桃やマスカット等のあまり馴染みのない味まで揃えてある。
「じゃあ…イチゴにします」
「まいど!」
出来たてのかき氷を受け取り、近くの石段に腰を落ち着ける。細かな氷の粒にシロップが染み込んで、祭り会場の照明に反射してキラキラと輝いている。思わず小さな笑い声が漏れた。
「どうかしやした?」
「いえ、かき氷なんて何年振りかなぁ〜って」
「俺は毎年食べてやすけど、Aさんは食べねェんですかィ?」
「久しぶりだと思います」
子どもの頃はこの冷たさと華やかさに惹かれたりもしたが、歳を重ねるにつれてそういう気持ちも薄れていった。祭り自体も久しぶりに訪れたものだ。
「良いですね、こういうの」
ありきたりかも知れないが、寧ろそれが愛おしい。口に運んだ冷たさは甘みと共に消えて無くなってしまうが、この華やかな夏の記憶は思い出として心に残る。
穏やかな時間の流れる背後で、花火の開始を知らせるアナウンスが遠く響いていた。
〜END〜
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時